不動産の売却は、不動産会社を介して行うことが一般的です。それだけに、不動産売却の成功・失敗は、不動産会社選びにかかっているといっても過言ではありません。 ここでは、信頼できる不動産会社を選ぶために知っておきたい、不動産売却の流れや不動産会社との契約の種類、不動産会社の見分け方などについてご紹介します。
不動産売却の2つのパターン
車やバイク、家具、古本といった中古品を売る場合、個人売買サービスを利用して直接買い手を見つける方法もありますが、買取ショップに引き取ってもらうことが一般的ではないでしょうか。 しかし、不動産の場合は、これらのケースとは少し事情が異なります。不動産を売却するには、おおまかに次の2つの方法に区分されます。
不動産の売買や賃貸借の際に、売主様と買主様もしくは貸主と借主のあいだに立ち、売買契約や賃貸借契約を成立させることを、不動産仲介といいます。売主様が自分で広告を打ち、買い手を見つけるのは困難なため、物件の宣伝・買い手探しを不動産会社に依頼するのです。不動産会社は、具体的に次のようなことを行います。
- ・物件の査定や売却価格の提案
- ・インターネットや折込チラシなどによる物件の宣伝
- ・自社データバンクに登録されている購入希望者や来店顧客への物件の紹介
- ・物件購入検討者の現地案内
- ・物件の状態や権利関係、法規制、周辺地域の情報などの調査
- ・購入希望者との条件折衝や契約手続きなどの各種調整
- ・重要事項説明書の作成、売買契約書の作成
- ・契約締結、残金決済、物件の引渡し など…
売主様は、不動産の売却が成功した時点で、仲介してくれた不動産会社に、報酬として「仲介手数料」を支払います。仲介手数料の金額は、宅地建物取引業法で上限が定められており、それがひとつの目安となっています。
仲介手数料の上限金額は、以下のように定められています。
■仲介手数料の上限金額
売買価格 |
仲介手数料 |
200万円以下 |
売買価格の5% |
200万円超400万円以下 |
売買価格の4%+2万円 |
400万円超 |
売買価格の3%+6万円 |
※仲介手数料には別途消費税がかかります。
売買価格が400万円を超える場合には、「(売買価格×3%+60,000円)+消費税」(課税事業者の場合)の計算式で求めることができます。
不動産買取とは、言葉そのままに不動産会社に不動産を直接買い取ってもらうことです。不動産会社が買い手になるため、当然ながら、仲介手数料は発生しません。 不動産会社は、買い取った物件を修繕したり、リフォームしたりして、付加価値を高めた上で、販売することが一般的です。
仲介と買取のどちらを選ぶべきか?
仲介と買取のどちらが適しているかは、売主様の売却事情や物件の状況によっても異なってきます。
仲介は、不動産会社を通して広く買い手を募る方法です。不動産の市場相場どおりの想定価格で売却できる可能性があり、人気のある物件の場合には多くの購入希望者の問合せが期待できます。そのため、「売却を急いでおらず、できるだけ市場相場の価格で売りたい場合」や「売却する不動産に希少性があり、市場で人気がある場合」などにおすすめです。
一方、買取は、仲介手数料が発生しないことや、売主様の瑕疵担保責任を合意により軽減できる可能性があること、また、売却までの時間が短いことがメリットです。 瑕疵担保責任とは、売買契約において売主様に課されるもので、「売却後に瑕疵(欠陥)が見つかった場合、それを解決する責任」のことをいいます。例えば、家を売った後の一定期間内(契約時に取決めを行うのが一般的です)に雨漏りすることが判明した場合、瑕疵担保責任を負う売主様が、責任を持って直さなくてはなりません。しかし、買取の場合は、特約により瑕疵担保責任を免責とすることも場合によっては可能であり、そこが仲介との大きな違いとなっています。
また、不動産会社は、修繕やリフォームを行うことを前提に買取を行います。そのため、経年劣化が激しいなどの理由で、一般の市場ではなかなか買い手がつきにくい不動産も、条件次第では買取ってくれる場合があります。 そのようなことから、「多少価格が下がっても早急に売却したい場合」や「建物の損傷や経年劣化が激しい場合」、「土地面積が大きいなど一般の市場で売れにくい不動産を売却したい場合」などは、買取がおすすめといえます。
不動産会社に売却を依頼するときの3つのパターン
不動産会社に仲介を依頼する場合は、売主様と不動産会社のあいだで「媒介契約」を結ぶ必要があります。これは、当該不動産を売るために不動産会社がどのような営業活動を行うか、その活動に対して売主様がどれだけ報酬を支払うかなどを事前に取り決めた契約となります。 契約自由の原則に則り、媒介契約期間、報酬額など宅地建物取引業法(宅建業法)で定められた内容以外は、基本的には当事者同士で条件を決めればいいとされていますが、ガイドラインとして国土交通省が策定した「標準媒介契約約款」というものがあり、特別な事情がない限り、契約内容はこれに沿ったものとなります。
媒介契約には3つのパターンがあり、それぞれ「専属専任媒介契約」「専任媒介契約」「一般媒介契約」と呼ばれています。不動産会社が買い手を探すことや、仲介手数料の計算方法などはいずれも同じですが、次のような違いがあります。
専属専任媒介契約とは、不動産会社を1社のみに限る契約です。ほかの不動産会社に仲介を依頼することはできず、自分で見つけた買主様であっても、不動産会社を介さずに売買契約を結ぶことはできません。 売主様を強く拘束する契約であることから、専属専任媒介契約の契約期間は、法令により3ヶ月以内と定められています。
この媒介契約を結んだ不動産会社は、契約締結の翌日から5営業日以内に、対象の物件情報を指定流通機構(宅地建物取引業法に基づき国土交通大臣が指定した不動産流通機構。通称、レインズ)に登録する義務、および1週間に1回以上、依頼主に業務処理状況を報告する義務を負います。
不動産会社は、当該不動産の売買契約を成立させることができれば、仲介手数料が入る公算が高いことから積極的な営業活動が期待できます。
専任媒介契約は、専属専任媒介契約と同じく、仲介を依頼できる不動産会社は1社となります。ただし、自分で見つけた買主様とは、不動産会社を介さずに売買契約を結ぶことが可能となります。
また、専属専任媒介契約と同じく、法令により契約期間は3ヶ月以内と定められています。 仲介の依頼を受けた不動産会社は、契約締結の翌日から7営業日以内に物件を指定流通機構に登録する義務や、2週間に1回以上、依頼主に業務処理状況を報告する義務を負います。
一般媒介契約は、複数の不動産会社に、同時に仲介を依頼できる契約です。売主様自身が買い手を見つけた場合は、不動産会社を通さずに、直接売買契約を結ぶことも可能です。 契約期間には、法令上の制限はありませんが、行政指導に従い3ヶ月以内とするのが通例です。
また、媒介契約を結んだ不動産会社が、対象の物件情報を指定流通機構に登録する義務や、依頼主へ業務処理状況を報告する義務を負いません。ただし、依頼主の希望次第で、指定流通機構への登録を促したり、経過報告を求めたりすることが可能です。なお、仲介手数料は成功報酬として支払うものとなりますので、最も有力な購入希望者を紹介した不動産会社と取引を進め、売買契約が成立した際にはその不動産会社にのみ仲介手数料を支払うことになります。
大手と中小どちらが良い?不動産会社の違い
一口に不動産会社といっても、その規模や特徴は千差万別。不動産の売却においては、媒介契約のパターンだけでなく、どの不動産会社に仲介を依頼するかが非常に重要なポイントとなります。 不動産仲介会社は、おおまかに分けると「大手不動産仲介会社」と「中小不動産仲介会社」の2つに区分でき、それぞれ得意分野や強みは異なってきます。
不動産仲介における大手不動産仲介会社とは、全国に店舗網を持ち、年間の仲介取引件数や仲介手数料収入が上位に入ってくる不動産会社のことを指します。一方、中小不動産仲介会社とは、特定の地域で店舗を運営する、地域密着型の不動産会社のことを指し、両者には、およそ次のような違いがあります。
・大手不動産仲介会社
大手不動産仲介会社の特徴は、大手ならではの広いネットワークと店舗網を持っていることです。また、物件情報を広く流通させることが可能であることや、多くの顧客を抱えていることで購入希望者を見つけやすくなること、さらには、数多くの取引実績を持っていることで、精度の高い売却提案が可能となることがメリットといえるでしょう。 また、各種保証制度や仲介サービスも充実しており、安心して取引を進めることができるでしょう。
・中小不動産仲介会社
中小不動産仲介会社の特徴は、地域の事情に通じ、その地域の情報収集能力に長けていること。また、地域ならではの特色を考慮した査定や売却提案が可能であり、「この地域限定で物件を買いたい」と考えている買い手候補を見つけることが得意といえるでしょう。 一方、大手不動産仲介会社ほど広告費をかけられない可能性があるため、物件情報の発信が限定されることなどがデメリットとして考えられます。
不動産売却が成功するかどうかは、担当者の力量によるところも大きいため、会社の規模だけで決まるわけではないことも覚えておきましょう。
不動産会社の見分け方
大手・中小にかかわらず、信頼できる不動産会社を見極めるには、いくつか気を付けるべきポイントがあります。
宅地建物取引業法の規定により、日本で不動産の売買や仲介を行うためには「宅地建物取引業」の免許を取得する必要があります。そのため、不動産会社は、必ず宅地建物取引業免許を持っているといえます。 宅地建物取引業の免許には掲示義務があるため、不動産会社の事務所や店舗には、目につき易い場所に必ず免許番号が掲示されており、会社概要やウェブサイト、物件の広告チラシなどにも記載されています。この免許番号が、不動産会社選びにおいて、まずチェックするべきポイントになります。
免許番号は「東京都知事(8)第00000号」のように、免許権者(都道府県をまたいで事務所を持つ不動産会社は国土交通大臣免許、都道府県内にのみ事務所を持つ不動産会社は都道府県知事免許)、数字入りカッコ、番号という構成になっています。カッコの中の数字は免許の更新回数です。 免許は5年ごとの更新となりますので、この数から不動産会社の営業年数を知ることができます。単純に歴史が長ければいいというものではありませんが、経験豊富な不動産会社を見分ける手がかりになるといえるでしょう。
また、この免許番号を使って、不動産会社が受けた行政処分歴を調べることもできます。免許権者が国土交通大臣の場合は不動産会社の本店所在地を管轄する都道府県庁または国土交通省地方整備局、都道府県知事の場合は各都道府県庁の宅地建物取引業を管轄する部署へ行けば、それらを記した「宅地建物取引業者名簿」を閲覧することができます。 一部の行政処分情報は、「
国土交通省ネガティブ情報等検索システム」でも閲覧できるので、まずはこちらをチェックしてみるのもおすすめです。
ただし、行政処分歴はあくまで過去のことであり、それを受けて現在どのような営業体制をとっているかが重要です。 行政処分などの情報は判断材料のひとつにとどめ、実際に担当者と話した感触など、さまざま情報を組み合わせて判断しましょう。
不動産会社に査定を依頼し、査定価格やその根拠について説明を聞く
宅地建物取引業の免許番号は、貴重な情報源ではありますが、実際の会社の強みや担当者の力量まではわかりません。それらを見極めるには、不動産会社に不動産の価格査定依頼を出し、査定価格やその算出根拠、売却戦略などについて、直接担当者に確認してみることが一番です。 それらの質問に適切に答えてくれるか、また、満足のいく説明を得られるかは、信頼できる不動産会社・担当者を見分ける上で、とても重要な要素となり得ます。
例えば、ほかの物件に比べて査定価格が極端に高いにも関わらず、十分な根拠を示せない場合や、最初の売出価格で売れなかった場合のその後の展開について明確な想定がなく、「必ず売れます」としか言わない。そのような場合は、売却の依頼を見合わせたほうがよいでしょう。
不動産の査定依頼は、必ず複数の不動産会社に出すようにしましょう。 その理由は2つあります。1つ目の理由は、1社だけではその査定価格が妥当なのかどうか判断できないことが挙げられます。また、2つ目の理由は、不動産会社にもさまざまなタイプがあり、それぞれ得意分野が異なるからです。
それを判断するためにも複数の不動産会社に査定を依頼して各社の担当者と会い、「この人なら任せられそうだ」と思える人や会社を選ぶことがおすすめです。不動産の売却では、担当者の力量や売主様との相性も大切です。信頼できる担当者と出会うことで、成功につながりやすくなります。
安心して売却を任せられる不動産会社と出会うためにも、タイプの異なる不動産会社を複数選び、売却査定を依頼してみてください。
このような不動産会社には注意しましょう
不動産の売却に失敗しないためにも、物件のマイナス要因や懸念事項を教えてくれない会社や、売却査定価格が極端に高い会社には注意しましょう。
「土地の形状や建物にマイナス要因があり通常の相場より低くなることが想定される」「今は類似物件が多く、買い手市場となっているため、希望価格での売却は難しいことが想定される」など売却スケジュールに影響を与える懸念事項を事前に教えてもらえていれば、売出し価格の設定を変更したり、売却時期をずらしたりと事前に対策を立てることができます。 しかし、問題点がわからないままでは、準備をすることもできません。聞こえのよいことばかりを唱え、問題点を教えてくれない不動産会社は、避けたほうがよいでしょう。
市場相場より売却査定価格が極端に高いにもかかわらず、その根拠を十分に示さず、「必ずこの価格で売ってみせます!」と繰り返すような会社は、媒介契約の締結を第一の目的として営業している可能性があります。 市場相場からかけ離れた価格設定となってしまうと当然ながら引き合いがなく、結局は価格変更を重ねざるを得ず、結果、売買契約が成立するまで長期化してしまうといった最悪のケースも考えられます。そのようなことにならないよう、このような不動産会社は避けたほうがよいでしょう。
不動産会社選びは、不動産売却の成功・失敗を分ける大事な要素
不動産の売却を成功させるためには、信頼できる不動産会社や担当者と出会えるかが鍵となります。 複数の不動産会社に査定を依頼したり、実際に担当者と売却の相談を進めたりすることで、焦らず慎重に不動産会社を選択していきましょう。
土地を売る時のポイントについて詳しく知りたい方は、こちらもお読みください
<監修者>
池田 浩一
三重県鈴鹿市出身。名城大学商学部を学術奨学生として卒業する。大阪市内の不動産会社に勤務後、32歳で独立、現在の有限会社ハウスコム代表取締役に就任。宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者の資格を保有し、居住用・事業用不動産の売買、仲介、管理業務を中心に経験を積む。特に任意売却、相続案件、離婚による財産分与案件等を得意とする。現在は「次の時代に生き残る不動産、勝ち残る不動産業者」をテーマに、事業家、地主を対象に不動産投資、資産運用等、コンサルティング業に力を入れている。著書に「知りたいことが全部わかる!不動産の教科書」(株式会社ソーテック社)がある。
神原 陽平
税理士
1978年和歌山県和歌山市生まれ。2001年3月慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、酒類メーカーに勤務。2006年1月に退職後、東京・大阪の税理士事務所勤務を経て、税理士資格を取得し2012年8月独立開業。大阪市内を基盤に、個人事業主・法人の税務・会計、資産評価・相続税業務など税理士業務全般に携わる。
- ※本コンテンツは公開日時点での法制度に基づいて作成しています。
- ※実際の取引での法制度の適用可否については、税理士・税務署等にご確認のうえ判断してください。