マンション買い替えでよく聞く言葉に、「売り先行」と「買い先行」があります。
それぞれの違いとメリット・デメリットを押さえておくと、自身の都合に合った理想的な住み替えが実現しやすくなります。
売り先行とは、居住しているマンションの売却を済ませてから、新居となるマンションを購入する方法です。
マンション売却によって得た利益を新しいマンションの購入資金に充てられる点が特徴です。
売り先行でマンション買い換えをおこなう場合、売ることを優先するため売却活動に専念しやすく、納得のいく条件・価格での売却を実現しやすいでしょう。
売却後は確定した利益を購入資金に充てて新しいマンションを探せるため、具体的な資金計画が立てやすい点もメリットといえます。
売り先行のマンション買い替えでは、売りの成約(引渡し日)から新しいマンションの購入・引越しまでの間に仮住まいが必要となる場合があります。
上記のような理由から仮住まいへの入居が必要となった場合、仮住まい先の家賃や敷金・礼金などが必要になるうえ、二度の引越し費用がかかります。
マンション売却により余裕をもった資金計画を立てていたとしても、仮住まいが必要になると資金面の負担が大きくなりやすいため注意しましょう。
買い先行とは、新居となるマンションの購入を済ませてから、それまで居住していたマンションの売却をおこなう方法です。
仮住まいの心配をせず、希望に合ったマンション探しに専念できる点が特徴です。
買い先行でマンション買い換えを進めると、新居となるマンションを探す際に入居時期や引越し日などの時間的な条件を気にする必要がありません。
また、新居となるマンションが決定するまで、現在住んでいるマンションの売却準備や引越し準備を焦らず進められます。
売り先行に比べ、買い先行は資金面の負担があり、資金計画に狂いが生じやすい点がデメリットです。
新居となるマンションを購入する段階では現在住んでいるマンションの売却が済んでいないため、購入資金を別途準備する必要があります。
また、現在住んでいるマンションが相場よりも低い成約価格となった場合、マンション買い換え後も資金面の負担を感じやすいでしょう。
など、上記のようにあらゆるケースを想定して、慎重な資金計画を立てることが大切です。
売り先行と買い先行を同時進行する「売り買い同時進行」も、マンション買い換えのひとつの方法です。
売り買い同時進行とは、売り先行と買い先行のメリットを活かして買い替えを進め、デメリットによるリスクを最低限に抑える方法です。
売り買い同時進行はタイミングが要となる買い替え方法のため、実現するには多くの事前準備が必要です。
売り買い同時進行で理想的な住み替えをおこなうなら、マンション買い替えを検討する早めの段階で信頼のおける不動産仲介会社へ相談することが大切です。
住み替え同時の手順の詳細は以下にて解説しています。
売り先行のマンション買い換えは、以下の流れが基本となります。
複数の不動産仲介会社から査定価格を提示してもらうことができれば、より適正な相場価格を把握できます。
相談・手続きの手間を省くには複数社へ査定依頼ができる一括査定を利用することがおすすめです。
(ポイント)現在住んでいるマンションの相場を把握し、具体的な資金計画を作成する
信頼のおける不動産仲介会社と媒介契約を締結します。
媒介契約には契約内容が異なる3つの種類(「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」)があります。
(ポイント)媒介契約の種類や特徴について知っておく
媒介契約の種類については以下で解説しています。
不動産売却(売買)で失敗しないために、売買の基礎知識から押さえておくポイント・注意点を紹介
マンションを売り出して成約に至るまで、通常は3ヶ月ほどの期間がかかります。
不動産仲介会社と媒介契約を締結し、売出価格を決定したあとは、内見準備を進めます。売出から内見希望者がなかなか現れない場合などには、売出価格を見直すなどの対策が必要になります。
(ポイント)状況に応じて売出価格の見直しをおこなう
売買契約を結んでから引き渡しとなる期間は、物件の状況や取引の内容によって様々です。売り先行では居住中のマンションを売ることが前提になるため、できるだけ1~2ヶ月程度の猶予が欲しいという旨を条件交渉の際にしっかり織り込むようにしましょう。
売買契約締結後は新居となるマンション探しをおこない、新居の購入手続きを進めていくことが理想です。
(ポイント)引き渡し準備や新居探し、引越し準備など、スケジュールに余裕をもった計画を立てておく
引き渡し日から新居として購入するマンションの入居日まで日数が空いてしまう場合は、仮住まいの用意・引越しをおこないます。
もし売り買い同時進行で買い替えを進められているならば、居住中マンションの引き渡しと新居への引越しを済ませることができるため、仮住まいを介さずにマンション買い替えを完了できます。
(ポイント)引き渡し当日や引越し当日のスケジュールもよく確認しておく
マンションの売却に関しては以下の記事でより詳細に解説しています。
買い先行のマンション買い換えは、以下の流れで手続きを進めていくことができます。
マンション買い替えのための購入計画・資金計画を立てます。買い先行では居住中のマンションを売却した資金を計画に含めることはできません。しかし、できるだけ売却額の査定は進めておき、機会が合えば買い先行から同時進行に移行できるような状態にしておくことがおすすめです。買い先行の場合は焦って売る必要がないため、複数の不動産仲介会社に査定を依頼して売出金額をしっかり考えることができます。
(ポイント)買い先行でも、売出も視野にいれつつ査定などは進めておく
希望の条件に合ったマンションの紹介を受けながら、購入候補となるマンションがあれば内見に出向きます。
(ポイント)不動産仲介会社とよく相談し、焦らずできるだけ理想の条件に合致する物件を探す
新居となるマンションの購入手続きを進め、売買契約を締結します。
この段階までで、もし現在住んでいるマンションの売却活動をうまく進められていれば、売り買い同時進行に移行してマンション買い替えをスムーズに進めることも可能です。買主様が決まらないなどの理由で売却活動に遅れが生じていても、買い先行のマンション買い替えなら特に問題はありません。
(ポイント)スケジュールに余裕があれば、現在住んでいるマンションの売却活動も進める
新居となるマンションの売買契約締結後は、資金計画に沿って住宅ローン手続きを進めます。
現在住んでいるマンションの買主様が見つかった場合、住宅ローンの審査に通過できた段階で売却の売買契約を結ぶことができれば、スムーズな売り買い同時進行となります。
(ポイント)住宅ローンの開始日(入居日)は、売り買い同時進行にも対応できるよう、余裕をもって調整する
引越し会社の手配、荷物の整理、現在住んでいるマンションの清掃など、新居となるマンションへの引越し準備を進めます。
買い先行のマンション買い替えでは、現在住んでいるマンションの買主様が決定していない場合も、新居への引越しを優先しておこないます。
(ポイント)買い先行で新居に引越したあと、空室となった所有マンションのメンテナンスなどもしっかりおこなう
マンションの買い替えでは、「売却」と「購入」それぞれで以下の税金が発生します。
印紙税:
財産や権利の取引に課せられる税金です。
売却したマンションの売買契約時、契約金額に応じて200円から48万円の範囲で印紙税が発生します。
印紙税は売買契約書に収入印紙を貼り付けることで納付できますが、貼り付けの際に消印することを忘れないよう注意しましょう。
所得税:
マンションの売却によって得られる利益には、所得税が課せられます。
マンションなどの不動産を売却した場合には、その所有期間により所得の区分が異なります。具体的には、売却した年の1月1日現在で所有期間が5年超ならば「長期譲渡所得」、所有期間が5年以下ならば「短期譲渡所得」に分類されます。
長期譲渡所得の場合の税額は課税長期譲渡所得金額×15%、短期譲渡所得の場合の税額は課税短期譲渡所得金額×30%です。なお、平成25年から令和19年までの不動産売買では、別途、「復興特別所得税(所得税の2.1%)」が課税されます)
住民税:
マンションの売却によって得られる所得は、住民税の課税対象です。
長期譲渡所得に5%、短期譲渡所得に9%の住民税が発生します。
印紙税:
新居となるマンションの売買契約時も、契約金額に応じて200円~48万円の印紙税が発生します。
収入印紙は、作成して記名押印する売買契約書の部数ごとに必要となります。
登録免許税:
新居となるマンションにて不動産登記を申請する際に納める税金です。
登録免許税の幅は広く、登記内容により課税対象や税率が異なりますが、マンション買い替えにおけるマンション購入では、購入時の「所有権移転(土地売買・建物売買)登記」と、住宅ローンを組む際の「抵当権設定登記」での登録免許税が発生することが一般的です。
課税対象は新居となるマンションの固定資産税評価額で、税率は土地が1,000分の15(令和6年3月31日まで)、建物が1,000分の20(中古マンションの場合には、耐火建築物で築25年以内などの様々な条件を満たす必要がありますが、令和6年3月31日までは1,000分の3)となります。
不動産取得税:
不動産を取得した際にかかる税金です。土地・家屋の売買だけでなく、不動産の交換、贈与、新築、増改築も課税対象です。
不動産取得税額は対象となる不動産によって異なり、税率は以下のように算定されます。
不動産取得税額 = 固定資産税評価額 × 4%(土地及び居住用住宅は令和6年3月31日まで3%)
自宅の買い替えで発生する税金について、詳しい解説はこちらを参考ください。
マンションの買い替えでは、「特定のマイホームを買い換えたときの特例」を活用できます。
「特定のマイホームを買い換えたときの特例」とは、現在住んでいるマンションの売却で得た譲渡所得にかかる税金(所得税、復興特別所得税、住民税)を、次回のマンション売却まで繰り延べできる特例です。
新しく購入したマンションを売却する次回のマイホーム買い替えの際に税金が課税されるので、今回のマンション買い替えでは税金の負担を軽減できます。あくまで繰り延べであり、非課税なるわけではありませんので、買い替えたマンションをまた買い替える際には繰り延べた譲渡所得が加算されることに注意しましょう。
(例)
3,000万円で購入した現在住んでいるマンションを4,000万円で売却した場合、差額の1,000万円が譲渡所得となります。このとき、「特定のマイホームを買い換えたときの特例」を利用して新たに5,000万円のマンションを購入した場合、現在住んでいるマンションの売却で得た譲渡所得1,000万円にかかる所得税は、新たなマンションを売却するときまで繰り延べされます。
その後、5,000万円で購入したマンションを5,500万円で売却した場合、繰り延べしていた1,000万円が譲渡所得に加えられるため、この場合の譲渡所得は1,500万円となります。
(注)説明を簡潔にするため、減価償却などは考慮していません。
マンション売却で発生する税金や特例について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
「特定のマイホームを買い換えたときの特例」の適用条件や注意点についても解説しています。
マンション買い替えは「売り先行」「買い先行」「売り買い同時進行」によって手続きの流れが変わります。
既述のとおり、売り買い同時進行でマンション買い替えをおこなうと売却から購入までの手続きをスムーズに進められますが、実際には売主様・買主様の諸事情やスケジュールの不一致などにより、実現が難しい場合もあるでしょう。
以下では、「売り先行」「買い先行」「売り買い同時進行」いずれの流れであっても、失敗を避けるために押さえておきたいコツをご紹介します。
相場よりも低い価格で売却活動を進めると買主様が見つかる可能性が高まり、早期の売却を期待できます。
しかし、現在住んでいるマンションの売却で利益が出ない場合、新たなマンションの購入に資金面の負担がかかります。
反対に、新たなマンションの購入資金の確保を目的として、相場を上回る価格で売却活動を進めてしまうと、そもそも買主様が見つからない、売却タイミングを逃してしまうといった失敗につながります。
現在住んでいるマンションの売却は、相場を把握して適正な価格で売却活動を進めることが大切です。
売りたいマンションの条件に見合った適正な価格を知るには、不動産仲介会社の一括査定を利用して、複数社から査定価格を提示してもらうことがおすすめです。
不動産仲介会社から提示される査定価格は、成約想定価格であり、実際の成約価格ではありません。
例えば、査定価格にもとづいて現在住んでいるマンションを3,500万円で売り出した場合、買主様との交渉次第では実際の成約価格が3,500万円を下回る場合もあります。
そのため、不動産仲介会社の査定結果を確認する際は、査定価格=成約価格ではないことに注意しましょう。
また、マンションの売却により得られる利益とは、成約価格から税金や仲介手数料などの各種諸費用を差し引いた金額です。
成約価格すべてを新たなマンションの購入資金に充てられない点にも注意が必要です。
既述のとおり、現在住んでいるマンションの引き渡し日や新居となるマンションへの入居日などのタイミングによって、仮住まいが必要になることがあります。
また、決済や引き渡しのタイミング次第では、住宅ローンが二重でかかる可能性もあります。
こうした失敗を回避するには、引き渡し日と引越し日のタイミングを近づけたり、「先行引き渡し」や「引渡し猶予」を決めたりするなどの工夫が有効です。
仮住まいや二重ローンを避けるためにおこなえる対処方法は取引の進行度合いによって異なるので、不安があれば早い段階で不動産仲介会社に相談することがおすすめです。
マンション買い替えの流れについてまとめてまいりました。
マンションの買い替えをおこなう際は、売り先行や買い先行などいずれの流れにおいても、売り買い同時進行をふまえて居住中のマンションの相場や、現状に合わせた適正な価格を把握することが重要です。
そして、マンション買い替えは売り買い同時進行で進めることが理想といえますが、失敗を避けるためには信頼のおける不動産仲介会社を見つけることも重要なポイントです。
売りたいマンションの適正な価値を知るためにも、まずは複数の不動産仲介会社へ査定依頼ができるすまいValueで一括査定をおこなってみてはいかがでしょうか。
吉田成志
宅地建物取引士
宅地建物取引士、ファイナンシャル・プランナー、マンション管理士、消防設備士などの資格を保有。専任の宅建士として不動産仲介会社に従事した後、マンション管理士・消防設備士として独立。宅建士をはじめとした幅広い知識や経験を生かし、不動産売買や賃貸時に気になる疑問点の相談なども担当している。
酒向 潤一郎
税理士
J’sパートナー総合会計事務所(酒向潤一郎税理士事務所)にて、税理士として会計事務所の経営を行う一方で、一部上場IT企業の幹部や投資会社の監査役などを務める複業税理士。最近では開業・副業コンサルに注力。会計専門誌などにも複数寄稿している。
最後までお読みいただき、
ありがとうございます。
ご回答ありがとうございました。