長く住むことを前提に住宅購入計画を立てるケースが多く、住み替えを視野に入れているケースは少ないかもしれません。
しかし、住宅や家族を取り巻く環境は変化するもの。
住み替えが必要なケースを照らし合わせて見ていきましょう。
子どもが独立すると、子ども部屋の数だけ空き部屋ができます。
そうなると、夫婦2人暮らしで「間取りを充分に活用できない」「掃除や管理の手が回らない」といった状況から、住み替えを検討するケースが出てきます。
また、購入時は気にしていなかった階段や段差などの造りが、年齢を重ねた際、不安要素となることも。子どもから手が離れて老後の生活を考えると、バリアフリー設計や利便性の高い設備に意識が向き、住み替えを検討するきっかけとなります。
長く住んだ家は外観や内観に傷みが出る可能性があり、老朽化が進むと災害による被害や倒壊などのリスクが高まります。
長く住んだ家に愛着を持っていると住み替えに至らないケースもありますが、家の管理が厳しい場合、検討することも。
転勤や子どもの進路変更など、家を購入した当初は想定していなかった生活の変化により、住み替えを検討する場合があります。
また、近隣住民とのトラブルなどにより、やむをえず引越しをするケースもあるでしょう。
ライフスタイルの変化やトラブルによる住み替えは、引越しするまでに時間的な猶予がない場合があります。
地震や台風によるトラブルを減らすために、より安心できる地域に住み替えたいと考える方もいるでしょう。
住んでいる地域の自然災害のリスクは、国土交通省のハザードマップから調べられます。
長期的な居住を視野に入れる場合、河川の氾濫や土砂災害などのリスクが低い地域を選びたいものです。
住み替えはライフスタイルの変化に合わせて計画的に実施することもあれば、予期せぬタイミングで住み替えの必要性が出ることもあります。
家の住み替えに適したタイミングを見極めたい方は、以下の記事を参考にしてください。
家の住み替えが必要になった際、「お金が心配……」という方もいるでしょう。
住宅ローンの残債がある状態で住み替えをする場合、住み替えローンを利用するという方法があります。
ここからは、住み替えローンの概要とメリット・デメリットについて見ていきましょう。
住み替えローンとは、住宅ローンを完済しないまま住み替えをする際に、住宅ローンの残債を上乗せして借り入れできる融資のことです。
主に、オーバーローン時の選択肢のひとつで、やむをえない理由があるなど、住み替えをおこなわなければならないケースで利用されています
(※オーバーローンとは、住宅ローンの残債が家の売却額を上回っている状態のこと)。
住み替えローンは「買い替えローン」とも呼ばれています。融資の特徴や利用するシーンに違いはありません。
家の売却金や自己資金で住宅ローンを完済できる場合は、住み替えローンを利用する必要はありません。新しい家の購入時は、新たな住宅ローンを契約する流れとなります。
住み替えローンで借り入れできる融資額の目安は、担保となる物件(新しい家)の1.5倍~3倍です。
「住み替えローンを利用して希望の物件へ住み替えできるかどうか」という点は、以下の3つの要素が関係します。
住み替えローンの水準が1.5倍の場合を想定して、いくつかのケースを考えてみましょう。
〈ケース1〉
現在の住宅ローン残高:2,000万円
現在の家の成約価格 :1,000万円
新しい家の評価額 :2,000万円
この場合、住み替えには、住宅ローンの残債にあたる1,000万円と新しい家の購入にかかる2,000万円を合わせて、3,000万円の費用が必要です。住み替えローンの借り入れ限度額は3,000万円となるため、住み替えが可能となります。
〈ケース2〉
現在の住宅ローン残高:2,000万円
現在の家の成約価格 :500万円
新しい家の評価額 :2,000万円
この場合、住み替えには、住宅ローンの残債にあたる1,500万円と新しい家の購入にかかる2,000万円を合わせて、3,500万円費用が必要です。住み替えローンの借り入れ限度額は3,000万円となるため、新しい家の購入費用が足りず、住み替えが難しい状態となります。
ただし、家の住み替えには住宅ローンの残債や家の購入費用だけでなく、税金などの諸費用も発生します。住み替えローンを利用した住み替え計画を立てる際は、具体的な資金計画をもって準備を進めていくことが大切です。
家の住み替えで発生する税金については、こちらの記事を参考にしてください。
家を売って家を買う!マイホーム住み替えにかかる税金と注意点
住み替えローンを利用するメリットは、住み替え時の金銭的な負担を抑えられる点です。
現在の家を売却しても多額な住宅ローンが残る場合、住み替えローンを利用することで自己資金を使わずに住み替えを進められます。
「自己資金で住宅ローン完済が難しい」という方にとっては大きなメリットです。
通常の住宅ローンは家の購入を目的とした融資のため、家の購入費用以上の融資を受けることはできません。
これは、新しく購入する家を担保とすることで融資が実行されるためです。
例えば、5,000万円の家を担保に住宅ローンを利用する場合、5,000万円を超える金額を借り入れることはできません。
一方、住み替えローンはオーバーローン時の利用を前提とした融資のため、担保とする家以上の金額を借り入れできます。
このような特徴から、住み替えローン利用時の審査は通常の住宅ローンに比べて厳しく、金利も高い傾向にあります。
通常の住宅ローンと住み替えローンの違いを正しく理解し、ご自身のケースにおいて最適な資金計画を立てられるようにしましょう。
住み替えローンを利用する場合、売却と購入の決済時期を合わせる必要があります。
ここからは、住み替えローンを利用する際の条件と具体的な流れについて見ていきましょう。
住み替えローンは、家の売却と購入の決済日を同日にしなければ利用できない融資です。
現在の家の買主様が見つかり、引渡し日を迎えるまでは通常1ヶ月~2ヶ月。売主様はこの期間に新居を探す必要があります。
住み替えローンを利用すると、一般的な住宅購入に比べて新居探しにかけられる時間は短くなります。
限られた時間で希望の物件を見つけられるよう、希望条件(立地、間取り、金額など)を明確にしておきましょう。
現在住んでいる家の売却を優先して進めることで、新居探しにかける時間や購入資金を具体的に把握できます。
売却を優先して進める買い替え手順を「売り先行」と呼びます。
ここからは、売り先行で住み替えローンを利用する場合の住み替え手順を見ていきましょう。
まずは不動産仲介会社へ現在住んでいる家の査定を依頼して、「いくらで売れるのか」を把握しましょう。
複数の不動産仲介会社へ査定を依頼することで、複数社の査定結果を比較できます。
査定結果を確認する際は、以下のような点を比較してみましょう。
売主様は査定後に家のおおよその価値を把握できます。
このタイミングで、現在住宅ローンを組んでいる金融機関へ「住み替えローンを検討している旨」を相談しましょう。
不動産仲介会社と売主様で媒介契約を締結したら、家の売出価格を決定し、売却活動(広告掲載、内覧会の準備など)に入ります。
不動産仲介会社との媒介契約には次の3つの種類があります。
一般媒介契約:
後述する2つの媒介契約とは異なり、1社だけでなく、複数の不動産仲介会社へ仲介を依頼できる媒介契約です。
売主様が自分で探した買主様と取り引きすることも可能です。
有効期限がなく、不動産仲介会社からの状況報告も不定期となるため、売主様自身が積極的に売却活動をおこなう必要があります。
専任媒介契約:
不動産仲介会社1社に仲介を依頼する媒介契約です。
売主様は、仲介を依頼していない不動産仲介会社を通じて売却を進めることはできませんが、自分で買主様を見つけて取り引きすることは可能です。
専任媒介契約の有効期限は最大3ヶ月。売主様は、不動産仲介会社から2週間に一度以上売却活動の状況報告を受けられます。
専属専任媒介契約:
専任媒介契約と同様に、不動産仲介会社1社に仲介を依頼する媒介契約です。
売主様は、「仲介を依頼していない不動産仲介会社を通じて売却を進める」「自分で買主様を見つけて取り引きする」ことはできません。
専属専任媒介契約の有効期限は最大3ヶ月で、売主様は、不動産仲介会社から1週間に一度以上、売却活動の状況報告を受けられます。
不動産仲介会社と結ぶ媒介契約についての詳しい解説は、以下の記事を参考にしてください。
マンション売却の媒介契約「専属専任」「専任」「一般」メリット・デメリット
買主様との交渉が進むにつれ、成約価格の目処が立ちます。
成約価格がわかれば住宅ローンの返済計画や新居購入計画など、具体的な資金計画を立てられるようになります。
新居に求める条件や設備なども、資金計画に盛り込んでおきましょう。
資金計画や希望条件をもとに、本格的に新居探しをおこないます。
不動産仲介会社の紹介やインターネットを通じて希望の条件にあった物件を絞り、内覧会に足を運びましょう。
買主様との交渉が成立したら、現在の家の売買契約を結びます。
売買契約時は、買主様から購入代金の一部(手付金)を受け取ることができます。
購入希望の新居はこのタイミングまでに決定しましょう。
新居の購入意思を伝え、住み替えローンの事前審査を申し込みます。
必要書類については、新居の購入を仲介する不動産仲介会社の担当者に確認しましょう。
住み替えローンの事前審査が通ったら、新居の売主様と売買契約を結びます。
手付金を支払い、住み替えローンを正式に申し込みましょう。
住み替えローンの申し込み手順や必要書類については、不動産仲介会社や金融機関の担当者から説明があります。
売却した家の引渡し日に、買主様から購入代金(残額)の支払いがあります。
買主様から受け取った売却金は、住宅ローンの返済や新居の購入費用にあてるケースが一般的です。
特に、住宅ローンが残っている家の売却では、抵当権の問題から、売却した家の引渡し日と新居の購入日を同日に設定する必要があります。
住み替えローン利用時も通常の住宅ローンと同様に、融資の実行日を引渡しや新居購入のタイミングに合わせて設定します。
買い先行とは、新居の購入を優先して進める買い替え手順のことです。
新居の購入を済ませてから住んでいる家の売却をおこなうため、新居購入に家の売却金をあてられないという特徴があります。
買い先行は自己資金に余裕がある方に適した買い替え手順です。
買い先行と売り先行の具体的な流れや必要費用については、以下の記事を参考にしてください。
通常の住宅ローンに比べて審査が厳しい住み替えローン。
ここからは、住み替えローンを利用できる方の特徴や、審査基準について解説します。
住み替えローンは自宅の住み替えをおこなう際、オーバーローンになってしまう方を対象に実行される融資です。住み替えローンを利用できる方の特徴を確認しておきましょう。
住み替えローンは新居を担保とすることで実行される融資です。
住み替え後の住まいを賃貸住宅や実家にする予定の方は、住み替えローンを利用することはできません。
また、貸し店舗など賃貸目的で購入する物件に対しても、住み替えローンは利用できません。
住み替えローンは、現在の家の売却金で住宅ローンを完済できない場合に、残債を上乗せして借り入れする融資です。現在の家の売却金や自己資金で住宅ローンを完済できる方の場合、住み替えローンを利用する必要はありません。
住宅ローン以外の借入金で延滞歴があると、住み替えローンの審査に通りにくくなります。住み替えローンの審査申し込み後は、過去の住宅ローン以外の借入金について返済状況がチェックされます。そのため延滞歴がある場合は注意が必要です。
住み替えローンの審査基準には、以下のようなものがあります。
基本的な審査項目は、通常の住宅ローンと同様です。
住み替えローンを申し込む方の年収や勤務先、借入履歴や勤続年数、健康状態などがチェックされます。
ただし、各項目における審査条件は通常の住宅ローンよりも厳しくなるため、不安な方は信頼のおける不動産仲介会社への事前相談をおすすめします。
住み替えローンの審査時、特に重視される項目は次の3つです。
年収:
多いほど有利になる
勤務先:
公務員あるいは企業規模が大きいほど有利になる
勤続年数:
3年以上あると良い
(※具体的な基準は金融機関により異なる)
住み替えローンを融資する金融機関から見て、信頼性が高い方ほど審査に通る確率が高いといえます。
しかし、返済能力以上の融資を希望しているなど、返済にかかわるリスクがある場合は申込人の信頼性に関わらず審査に通らない可能性があります。
もともとの住宅ローンの残債が少ない、新居の購入価格を返済していく十分な収入があるといった場合、審査に通りやすくなるでしょう。
住み替えローンの詳しい利用条件や審査内容については、こちらの記事を参考ください。
予期せぬタイミングの住み替えにおいて、金銭的な負担を抑えられる住み替えローン。
ここからは、住み替えローンを利用する際の問題点やデメリットについて解説します。
担保とする新居以上の融資を借り入れられる住み替えローン。通常の住宅ローンに比べると金利が高いという特徴があります。やむをえない理由で住み替えローンを利用するとしても、返済金額を確認し、無理のない返済計画を立てることが大切です。
住み替えローンはオーバーローン状態で利用するケースが一般的。
住み替えローンを利用した住み替え後に返済計画が崩れると、債務に追われて生活が厳しくなることも考えられます。
住み替えローンを利用すれば住み替え時の資金不足を一時的に回避できます。しかし、オーバーローンの問題を解決することにはならない点に注意が必要です。
住み替えローンを利用する際は、現在の家の売却と新居の購入タイミングを合わせる必要があります。
新居探しの時間には限りがあり、かけられる予算は売却の結果によって変動します。
また、買主様候補が見つからないなどの理由で売却活動が進まないと、新居探しを進めることはできません。
住み替えローンは審査が厳しいことで知られています。
審査基準には多くの項目があり総合的に評価されますが、年収基準においては、通常の住宅ローンと比べて以下のような違いがあります。
〈審査における年収基準の違い〉
通常の住宅ローン:300万円~400万円以上
住み替えローン :400万円~500万円以上
住み替えローンで限度額いっぱいまで融資を受ける場合、担保となる新居の価格以上に借り入れができます。
住み替えローンを利用する際は「審査に通ったから安心」ではなく、現実的な返済計画を立てられるかどうかにも目を向けましょう。
返済計画を立てる際はキャッシュフロー表を作成し、毎月の返済金額に無理がないか確認することが大切です。
返済の負担を考え、住み替えローンを使わずに住み替えをしたいという方もいるのではないでしょうか。
住み替えローンを使わずに住み替え時の資金負担を減らす方法としては、以下が挙げられます。
つなぎ融資とは、一時的な資金不足を補うために、短期的に借り入れできる融資です。
主に、現在の家の売却と新居の購入タイミングがずれてしまう際に利用します。
つなぎ融資を利用する場合、借入金で先に新居を購入し、売却が済んだら借り入れたつなぎ融資を一括返済する、という流れで住み替えができます。
融資の期間は6ヶ月~1年以内が一般的。「買い先行で住み替えできる」「住み替えローンよりも新居探しに時間をかけられる」というメリットがあります。
新居探しに力を入れて買い先行で住み替えを進めるなら、ダブルローン(二重ローン)も選択肢のひとつです。
ダブルローンとは、現在の住宅ローンの返済を続けながら、新たに新居の住宅ローンを組むことです。
ダブルローンで住み替えをおこなう場合、以下の2つの条件を満たす必要があります。
金融機関へ相談するタイミングについては、こちらの記事を参考にしてください。
住宅ローンが残っている家を売を売りたい!完済前に売却する方法とは?
住み替えが必要となった際、現在の住宅ローンが残る場合は「住み替えローンの利用」も視野に入れましょう。
住み替えローンは審査が厳しく、利用できないケースもありますが、理想の住み替えを実現しやすくなります。
住み替えローンを使って住み替えを進める際は、新居探しや返済計画を慎重におこない、失敗のリスクを回避することが大切です。
「予期せぬ住み替えで不安が多い」「どうしたら負担を少なくできるかわからない」という方は、信頼のおける不動産仲介会社へ相談し、プロのアドバイスを参考にしましょう。
ぜひ、業界大手6社から専門家のアドバイスを受けられる、すまいValueへご相談ください。
宮本弘幸
宅地建物取引士
1960年石川県加賀市生まれ。大学卒業後、大手ハウスメーカーの営業として20年勤務した後、地元、金沢小松、加賀で不動産・住宅の営業に携わる。2016年より、石川県小松市にて、株式会社みやもと不動産を開業。お客さまのニーズをよく共有し、最適な提案を行う営業スタイルで、お客さまに愛される不動産業を心がけている。宅地建物取引士のほか、ファイナンシャルプランナー(AFP)、相続診断士などの資格を保有。
最後までお読みいただき、
ありがとうございます。
ご回答ありがとうございました。