自宅を売るときにリフォームしないほうがよい理由の一つとして、せっかくリフォームしても購入希望者の趣味に合わない可能性があります。
たとえば最近は、台所のシンクの「蛇口」だけでもさまざまな機能が搭載された、さまざまなデザインの製品が販売されています。浴槽や洗面台も、センサーがついていたり、凝った形状をしているものがあります。こうした水回り設備の使い勝手やデザインは、人の好みが大きくわかれます。
また食洗器も、一般的にはリフォームして備え付け式にすれば台所のグレードがアップしますが、なかには「食洗器の仕上がりが好きではない」という買主様もいるでしょう。
このように、売主様の趣味や住宅に対する考え方が、買主様の趣味や考え方と一致しなかったら、買主様にとってはリフォームした箇所こそが気に入らないポイントになってしまうのです。
3LDKを4DKにしようと考え、壁を新設するのも考えものです。最近は居間と和室にわけてどちらも狭い部屋にしてしまうくらいなら、和室を取り払って広い居間にする人もいるからです。「部屋が多いほうがいい」とは考えない人も増えているので、3LDKの家を2LDKにすることも珍しくなくなりました。
近年、リフォームよりはるかに大規模に家の内装を変更する「リノベーション」が流行っています。リノベーションでは従来のように単に壁を追加・撤去するだけの間取り変更とは違って、リビングダイニングとキッチンを合わせてカフェ風にするなどの大胆な間取りの変更ができます。
中古物件を購入してから自分好みにリノベーションをしようと考えている人は、リフォーム済みの物件を敬遠するでしょう。
リフォームのコストを成約価格に丸々上乗せすることは難しいでしょう。たとえば、リフォーム前の売却対象の家を不動産仲介会社に査定してもらったとします。そして査定結果が3,000万円だったとしましょう。
その次に300万円かけてリフォームをして、再度不動産仲介会社に査定してもらったとします。そのとき査定価格が3,300万円超えるかというと、そうはならない可能性が高いのです。
なぜなら、300万円分のリフォームを施しても、住宅の価値が300万円分高くなるわけではないからです。300万円のリフォーム代金のなかには、リフォーム会社の利益が含まれています。当然ながら、リフォーム会社の利益分は住宅の価値に反映されません。
300万円かけてリフォームしても査定価格が3,300万円を下回ってしまうなら、リフォームしないで売却した方が「得」といえます。
中古住宅を買取り、販売している不動産会社は、リフォームしてから家を売ることがほとんどですが、それは大量にリフォームを発注することで1件あたりのリフォームコストを抑えられるからこそできること。
リフォーム代金が安くなれば、リフォーム代金よりもリフォームにより上昇した住宅の価値の方が上回るので、不動産会社は「リフォームして売ったほうが得」になるのです。
家を適正な価格で売るためには、コストのかかるリフォームよりも、家のなかを片付けたほうが効率的です。理想は「空の家」ですが、住みながら販売活動をする場合は、外部のトランクルームなどを使って、不要な家具を移動させてしまいましょう。家具や荷物が少ないと空間が広く感じられ、内見者がよい印象を持ちます。
掃除も重要です。家が汚いと、購入希望者に値引き交渉の材料に使われてしまうこともあるので、ハウスクリーニング業者を使って本格的に清掃してもらったほうがいいでしょう。ハウスクリーニングも費用がかかりますので、決して安い投資ではありませんが、内覧会に参加した人に「清潔感のある家」という印象を抱かせれば、売買契約に一歩近づきます。
個人が自宅を売却する際にリフォームすることは、個人の趣向やコスト面から割に合わないことが多いです。ただ「可能な限り家をきれいにしてから買主様に渡したい」という気持ちは大切にしてください。
部屋のなかの片付けやハウスクリーニング業者を使った清掃は、「大切に使ってもらいたい」という気持ちの表れであり、きっと買主様にも伝わるでしょう。
買主様も、元の持ち主が大切にしていた家のほうが、より買いたいという気持ちになるのではないでしょうか。
小林弘司
不動産コンサルタント/不動産投資アドバイザー
東京生まれ、東京育ち。海外取引メインの商社マン、外資系マーケティング、ライセンス会社などを経て、現在は東京都内にビル、マンション、アパート、コインパーキングなど複数保有する不動産ビジネスのオーナー経営者(創業者)です。ネイティヴによる英語スクールの共同経営者、地元の区の「ビジネス相談員」、企業顧問なども行っています。
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