抵当権とは、金融機関がお金を貸し出す際、その返済の保障として不動産などに設定する担保のことを指します。不動産に抵当権が付いていても、住宅ローンを滞りなく支払っていれば何も問題はありません。しかし、支払いが滞った場合、最終的に金融機関は抵当権の付いている物件を競売(けいばい)にかけるなどして資金の回収にかかります。
抵当権を抹消するには、担保のもととなっている住宅ローンを返済し終わり、金融機関から必要書類を受け取って、法務局まで抵当権の抹消手続きを申請しなくてはなりません。マンションの売却に当たっては、ほかにも所有権の移転など登記の手続きが複数あるため、物件の引き渡し日に一括して司法書士に依頼するケースがほとんどです。
「住宅ローンは完済しているけれど、抹消登記の費用がもったいないから抵当権を残したままマンションを売却する」という考えに至る方もいるかも知れません。売主様の抵当権が残ったままでも、マンションを売却することは法律上不可能ではありませんが、実質上、抵当権を残したままで別の人にマンションを売却することは不可能と考えた方がよいでしょう。
抵当権が設定されたままのマンションを購入する立場になって考えてみましょう。買主様側からは、「売主様が住宅ローンを完済した」と説明されても、抵当権が設定されている限り、完済を客観的に確認することができません。買主様からすれば金融機関の抵当権が付いているわけですから、マンションがいきなり競売にかけられる可能性は残ったままになってしまいます。そのため、マンション売却で入手したお金を住宅ローンの返済にあてて抵当権を抹消する場合には、売主様が売買代金受領後に金融機関へ残債を返済し、抵当権の抹消手続き完了したうえで、買主様が名義変更を行うのが一般的な流れになっています。また、買主様のリスクを避けるために、この一連の手続きは、通常同じ日に行うようにします。
不動産仲介会社も、抵当権が設定されているかどうかは必ず確認し、抵当権が抹消できるかどうかの調査もおこなっています。当然、抵当権が設定されていることを隠すことはできません。
このような状況から、マンションに抵当権が設定されていた場合、抹消できるというめどが立たなければ売却はほぼ不可能です。また、抵当権が付いたままにしてしまうと、「登記の流用」として信用情報に影響を与え、「ほかの住宅ローンが組めなくなる」という事態も起こりえます。売主様ご自身にとっても大きなデメリットがあるので、抵当権は抹消してから売却するようにしましょう。
それでは、抵当権抹消手続きに必要な書類と流れについて説明します。
抵当権抹消手続きに必要な書類は以下のとおりです。
1.登記申請書
2.登記識別情報または登記済証
3.登記原因証明情報
4.登録免許税
5.抵当権者の委任状(代理人が手続きする場合に必要)
登記申請書は、法務局に提出する書類です。フォーマットや記載例は法務局のホームページに掲載されていますので、そちらで入手して記載します。
登記識別情報または登記済証は、抵当権を持っている金融機関が所持しています。住宅ローンを完済すると渡してもらえるため、手続きを進めるまでには入手しておかなくてはなりません。
登記原因証明情報とは、抵当権抹消の場合、抹消の原因となる「住宅ローンの完済」を証明する書類を指します。具体的には、金融機関から送付される抵当権解除証書や弁済証書、抵当権放棄証書などです。
また、登記には登録免許税(不動産1件につき1,000円)が必要です。最後の抵当権者の委任状は、抵当権者(マンションの所有者)や所有者(金融機関)が、代理人に申請を委任する場合に提出が必要で、住宅ローンを完済すると、金融機関から送付されます。
次に、マンション売却を前提として抵当権抹消手続きの流れを見ていきましょう。自分で手続きをおこなう場合と、司法書士に頼む場合の2パターンをそれぞれ紹介します。
<自分で抵当権抹消手続きをおこなう場合>
1.管轄の法務局を調べて抵当権抹消用の登記申請書を作成する
2.住宅ローンを完済していない場合は完済してから、抵当権抹消に必要な書類をそろえる
3.マンションの引き渡し日までに管轄の法務局で登記申請をおこなう
4.登記完了の書類を受け取る
5.登記完了の書類を持ってマンションの引き渡しをおこなう
<司法書士に抵当権抹消手続きを依頼する場合>
1.依頼する司法書士を探してマンション売却に伴う登記について問い合わせをする
2.金融機関とも連携してマンションの引き渡し日までに必要な書類をそろえる
3.司法書士へ、委任状および登記費用+司法書士への報酬(1万円程度)を渡す
4.マンションの引き渡し日に司法書士・金融機関の担当者も同席して、抵当権抹消の手続きを進める
5.マンション引き渡し日に作成した書類を持って司法書士が法務局で登記手続きをする
6.登記完了の書類を受け取る
マンション売却の場合は、ほかにも登記が必要になるので、司法書士に一括して依頼する方がスムーズです。
抵当権抹消は、不動産売却時には欠かせない手続きです。抵当権が残ったままですと売主様の信用情報に問題が出るようなデメリットにもつながる可能性があるため、事前に完済するか、売却して入手した金額を住宅ローンの返済にあてて抵当権を抹消するようにしましょう。抵当権抹消の手続きをされる際には、ご紹介した必要書類や手続きの流れを参考になさってください。
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小林弘司
不動産コンサルタント/不動産投資アドバイザー
東京生まれ、東京育ち。海外取引メインの商社マン、外資系マーケティング、ライセンス会社などを経て、現在は東京都内にビル、マンション、アパート、コインパーキングなど複数保有する不動産ビジネスのオーナー経営者(創業者)です。ネイティヴによる英語スクールの共同経営者、地元の区の「ビジネス相談員」、企業顧問なども行っています。
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