不動産売却後の確定申告が必要かどうかは、「譲渡所得」があったか、利益が出たかで判断できます。
譲渡所得とは、不動産を売って得た金額(収入金額※1)から、当該不動産の取得や譲渡にかかった諸費用(取得費、譲渡費用※2)や特別控除額※3を差し引いた金額のことです。まずは、不動産売却により譲渡所得が発生したかどうかを確認しましょう。
譲渡所得は、以下の計算式から算出できます。
譲渡所得金額 = 収入金額 -(取得費+譲渡費用)- 特別控除額
※1収入金額は、不動産の成約価格を用います
※2取得費、譲渡費用には、不動産の成約価格のほか、仲介手数料や立退料、印紙税などの諸費用も含まれます
※3特別控除額とは、各種特例の適用により、譲渡所得金額の一部が控除される金額のことです。特別控除は一定の条件を満たすことで適用されます。確定申告時に特別控除が適用されると、納める税金の一部を抑えることができます
(例)4,000万円で購入した不動産を4,800万円で売却し、200万円の譲渡費用がかかった場合
収入金額:4,800万円
取得費:4,000万円
譲渡費用:200万円
譲渡所得金額 = 4,800万円 -(4,000万円+200万円)
このケースの譲渡所得金額は600万円です。特別控除の適用を受けない場合、譲渡所得金額600万円に対する税金(所得税、住民税)を納めるため、確定申告を行う必要があります。
一定の条件を満たして特別控除の特例の適用を受ける場合は、確定申告を行うことで譲渡所得金額600万円から特別控除額が差し引かれ、残った金額に対する税金(所得税、住民税)がかかります。
不動産売却後に活用できる代表的な特別控除の特例に「3,000万円の特別控除」があります。
これは、譲渡所得金額から最大3,000万円の控除を受けられる制度のことです。
上記のケースで考えると、譲渡所得金額600万円は全額控除されるため、不動産売却による税金が発生しません。
不動産売却時の特別控除については、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:特別控除とは不動産の成約価格が3,000万円以下なら税がかからない仕組み
一方で、不動産を売却して譲渡所得が出ないようなケースでは、確定申告は原則、必要ありません。
(例)6,000万円で購入した不動産を3,500万円で売却し、130万円の譲渡費用がかかった場合
収入金額:3,500万円
取得費:6,000万円
譲渡費用:130万円
譲渡所得金額 = 3,500万円 -(6,000万円+130万円)
このケースでは、収入金額の3,500万円を超える取得費と譲渡費用を差し引き、譲渡所得金額はマイナス2,630万円です。
不動産の売却による譲渡所得がないことから、納税のための確定申告は原則不要となります。
ただし、上例のように不動産売却による損失(=譲渡損失)がある際は、ほかの所得との損益通算や繰越控除が可能な以下の特例を適用できる場合があります(詳しくは『不動産を売却して損失が出た場合の確定申告』の項で解説しています)。
不動産売却で生じた損失に特例が適用されると、該当する年度に納めるべき税金額の軽減(税金還付)が可能です。しかし、損益通算や繰越控除に関わる特例を受けるには確定申告が必要です。つまり、不動産売却で譲渡所得(利益)が生じていなくても、必要に応じて確定申告の準備を整える必要があります。
不動産売却後に特別控除の特例が適用できるかどうか知りたい方は、以下の記事も合わせてご覧ください。
関連記事:不動産売却に関する税金のこと
確定申告の申告時期は、不動産を売却した翌年の2月16日~3月15日です。
申告期限が近付くと混雑が予想されるため、税務署へ直接足を運ぶ場合は時間に余裕を持ってスケジューリングしましょう。
また、次のような方法で確定申告を行うこともできます。
税務署で確定申告を行う場合、不備がないか確認しながら申告書を作成できます。
そのほかの方法では、申告書の記載内容や添付書類に不備があると、後日対応を求められることもあります。
いずれの方法においても申告期限までに確定申告ができるよう、余裕を持って準備を進めることが大切です。
確定申告の必要があるにも関わらず、申告期間内に確定申告ができなかった場合、次のような追加課税が課せられます。
・無申告加算税
確定申告をしないまま申告期限を超えた場合に課せられる税金です。
納付すべき税額に対して50万円までの金額には15%、50万円を超える金額には20%の割合で課税されます(正当な理由がある場合などを除く)。
また、税務署から指摘をもらう前に自主的に確定申告を行った場合は、課税割合が5%に軽減されます。
・延滞税
納めるべき税金を法定納期限までに納めなかった場合に課税される税金です。
法定納期限とは、法律によって定められた税金の納付期日のことです。
延滞税として課税される税額は、延滞期間によって以下のように異なります。
法定納期限の翌日から2ヶ月を経過する日まで:原則7.3%
法定納期限の翌日から2ヶ月を経過した日後:原則14.6%
また、申告期限に関わらず、正当でない確定申告を行うと以下のような追加課税が課されます。
・過少申告加算税
納めた税金が少ないなど、過少に確定申告をした場合に課される税金です。納付すべき税額に対して一律10%の課税がされます。
ただし、正当な理由がある場合や一定の要件を満たす修正申告の場合には、不適用となります。
・重加算税
意図して虚偽の確定申告を行った場合など、悪質な申告行為が発覚した場合に課される税金です。納付するべき税額に対して35%か40%の課税がされます。
不動産売却により確定申告を行う際は、売却した不動産の情報が記載された以下の書類が必要となります。
・譲渡した土地建物等の売買契約書(写し)
不動産売却時に作成され、各自で保管している書類です。
・譲渡した土地建物等にかかった費用の領収書(写し)
不動産売却時に受け取っている、仲介手数料、測量費、登記費用などの領収書です。
・売却した土地・建物の全部事項証明書(原本)
不動産の売却後、管轄の法務局で入手できる書類です。
不動産売却時に入手した書類は、確定申告の時まで大切に保管しておきましょう。
確定申告の際は、上記を用意し、税務署で入手できる次の書類とあわせて提出します。
・確定申告書第一表、第二表(B様式)、申告書第三表(分離課税用)
国税庁ホームページでの作成も可能です。
・譲渡所得の内訳書【土地・建物用】
不動産売却後、税務署から送られてくるものを使用できます。
申告書は記入箇所が多いため記入漏れには注意が必要です。不安な方は、インターネット上で必要事項を入力できる「国税庁 確定申告書等作成コーナー」を利用すると、画面の指示に従いながら落ち着いて申告書の作成を行うことができます。
不動産の売却により譲渡所得がある場合、一定の条件を満たすことで各種控除を受けられます。
それぞれの適用を受ける場合、前述した書類に加えて以下の書類も用意する必要があります。
・居住用財産の3,000万円特別控除
譲渡所得から最高3,000万円の控除を受けられる制度 |
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必要書類
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・所有期間10年超の軽減税率
譲渡所得にかかる税率が軽減される制度 |
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必要書類
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・特定居住用財産の買換え特例
譲渡所得にかかる税金を将来に延長できる制度 |
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必要書類
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前述のとおり、不動産を売却して損失が生じるケースでは、原則、確定申告の必要はありません。課税対象となる譲渡所得が発生していないからです。
しかし、確定申告を行って特例の適用を受けることで、損失額をほかの所得と合わせて計上し、結果として年度内の税金を軽減することはできます。
ここからは、「不動産売却によって損失が生じた場合」に押さえておきたい2つの特例について見ていきましょう。
マイホームの買い替えにより生じた損失を、損益通算や繰越控除できる制度です。
本特例の適用要件・適用除外要件は、次のとおりです。
〈適用要件〉
〈適用除外要件〉
※居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の軽減税率の特例、居住用財産の譲渡所得の3,000万円の特別控除、特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例 など
本特例を受けるために必要となる書類には、以下のようなものがあります。
〈損益通算〉
※登記事項証明書や売買契約書の写し、またはこれらと同様の記載があるもので可
〈繰越控除〉
※翌々年以後に繰り越す譲渡損失がある場合、確定申告書第一表、第二表(B様式)とは別途必要
参照元:No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)|国税庁
住宅ローンの残債があるマイホームを住宅ローンの残高以下で売却し、それにより生じた損失を損益通算や繰越控除できる制度です。
本特例の適用要件・適用除外要件は、次のとおりです。
〈適用要件〉
〈適用除外要件〉
※居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の軽減税率の特例、居住用財産の譲渡所得の3,000万円の特別控除、特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例 など
本特例を受けるために必要となる書類には、以下のようなものがあります。
〈損益通算〉
※登記事項証明書や売買契約書の写しなど
〈繰越控除〉
参照元:No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)|国税庁
ここからは、不動産売却後に税金を納付するまでの、確定申告の流れについて解説します。
不動産売却後の確定申告で必要となる書類を確認しておきましょう。
また、譲渡所得以外の税金についても確定申告を行う場合は、上記に加え、次の書類を用意します。
※医療費の領収書、社会保険料(国民年金保険料)控除証明書、生命保険料の控除証明書、地震保険料の控除証明書、寄附金の受領証 など
確定申告書は、手書きもしくはインターネット上で記入して作成します。手書きの場合、税務署で入手できる確定申告書に必要事項を記入して作成します。
インターネット上で確定申告書の作成を行う場合、代表的な方法に「e-Tax(国税電子申告・納税システム)」があります。e-Taxを利用するには、マイナンバーカードを用いた事前登録が必要です。
近年では、日々の入力データを用いて確定申告書を作成できる会計ソフトもあります。
作成した確定申告書と添付書類が揃ったら、確定申告時期に所定の方法で税務署へ提出します。前述のe-Taxを利用して確定申告書を作成している場合は、本人確認書類を添えてインターネット経由での提出も可能です(メンテナンス時間を除く24時間提出可)。
不動産売却後の確定申告により決定する税金は、所得税と住民税です。所得税は、次のいずれかの方法で納付できます。
・口座振替
確定申告時に振替納税の申請をすることで、口座振替が可能です。所得税の口座振替時期は4月20日前後となります。
・現金
納付書を添え、現金で納付する方法です。確定申告を行った税務署窓口や金融機関にて、3月15日までに納付します。
・e-Tax
e-Taxを経由して電子納税する方法です。口座振替やインターネットバンキング納付、クレジットカード納付やコンビニ納付に対応しています。
不動産売却後の確定申告は、国税庁がアナウンスする「申告手続きの流れ」にそって進められます。
ただし、確定申告書はB様式を使用する、適用を受ける特例に応じて異なる必要書類を用意するなど、留意するべきポイントも多いため、不安があれば税務署の相談窓口を活用しましょう。
自分で確定申告を行うのが難しいという場合、税理士へ依頼することも可能です。
不動産を売却した際、利益が出ていなければ原則として確定申告の必要はありません。
一方で、「売却による利益がある」「損した分の控除を受けたい」という場合は、確定申告を行う必要があります。
確定申告の必要がありながら申告時期を過ぎてしまうと、追加課税を受けてしまう可能性があります。不動産売却後に確定申告を行う方は、申告時期前から余裕を持って準備を進めることが大切です。
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酒向 潤一郎
税理士
J'sパートナー総合会計事務所(酒向潤一郎税理士事務所)にて、税理士として会計事務所の経営を行う一方で、一部上場IT企業の幹部や投資会社の監査役などを務める複業税理士。最近では開業・副業コンサルに注力。会計専門誌などにも複数寄稿している。
最後までお読みいただき、
ありがとうございます。
ご回答ありがとうございました。