最初に、マンションの売却準備から売却が完了するまでの一連の流れを確認しましょう。マンション売却の流れは、大きく次の7段階に分かれています。
1. 売却の準備
マンション売却を考えている人は「いつでも、いくらでもいいから売りたい」ではなく、「新しく戸建て住宅を買いたいから今のマンションを売りたい。預金がいくらで、住宅ローン残高がこのくらいあるから、◯◯円程度で売れるといい」など、具体的な希望を持っているのが普通でしょう。
売却の準備段階でこの部分をもう少し突き詰め、市場相場を調べておくことで、後の工程がスムーズになります。売却を考え始めたら、まずは次の4つを行うことをおすすめします。・マンション情報を確認する
マンションの広さや所有者、権利関係が記載されている「登記簿謄本(登記事項証明書)」、マンションを購入した際に不動産会社から渡される「重要事項説明書」、不動産の評価額が記載されている「固定資産税課税明細書」などを用意して、マンションの状況を確認します。
・いくらで売れそうか、大まかな目安を知っておく
売出価格は、売主様が自由に決められますが、相場より極端に高すぎると買い手がつかない可能性があります。相場を知るには、複数の不動産会社に査定を依頼するのが確実ですが、目安を知るために、環境の似たマンションの売出価格などを調べておくといいでしょう。
・預金額や住宅ローン残高をチェックする
売却希望価格を設定し、売却プランを立てるためには、預金額・住宅ローン残高の把握が欠かせません。預金通帳と住宅ローンの返済予定表を見て確認してください。
・いつごろまでに売却したいか予定を立てる
マンションの売却には、一般的に、3ヶ月ほどの期間がかかります。もしも計画どおりにいかない場合、多少価格を下げても早く売りたいのか、時間はかかっても高く売りたいのか、売却プランを検討する必要があります。いつごろまでに売却したいか、あらかじめ考えておきましょう。
2. 不動産会社に査定を依頼する
準備が整ったら、不動産会社に売却査定の依頼を出します。ここで重要なのは、必ず複数の不動産会社に依頼することです。
一口に不動産会社といっても、地元の物件だけを扱う会社から、広く買取りのみを行っている会社、店舗を複数持ち、売買仲介全般を手掛けている会社、全国展開する大手チェーンまでさまざまなタイプがあり、会社によって得意分野も異なります。3. 不動産会社による調査・査定
不動産会社による調査・査定は、立地や築年数、構造、間取りなどの情報から売却査定価格を算出する「机上査定」と、実際に不動産会社のスタッフがマンション内部を見て売却査定価格を算出する「訪問査定」の2つのやり方があります。
このうち、机上査定でわかるのは、あくまで目安の売却査定価格のため、より精度の高い売却査定価格が算出できる訪問査定を依頼することがおすすめです。売却査定価格は、マンションの立地や築年数、状態はもちろんのこと、近隣の似たような物件の売出価格や景気の状況、地域の開発計画、同じマンション内での事件・事故の有無、売却を急いでいるか否かなどの条件にも左右され、売却するタイミングによってもある程度変動します。4. 不動産会社との媒介契約
査定の結果を踏まえ、信頼できる不動産会社を選んだら、売却活動をしてもらうための契約「媒介契約」を結びます。
媒介契約には、売却活動を完全に1社だけに任せる「専属専任媒介契約」と、売却活動は1社に任せるが自分で買い手を見つけて売買契約を締結することもできる「専任媒介契約」、売却活動を数社に任せる「一般媒介契約」の3タイプがありますので、目的に合ったものを選びましょう。5. 売却活動
媒介契約を結ぶと、不動産会社による売却のための営業活動が始まり、ウェブなどに物件の広告が掲載されます。不動産会社には、専属専任媒介契約なら1週間に1回以上、専任媒介契約なら2週間に1回以上の業務状況の報告義務があります。
6. 売買契約・引渡し
購入希望者が現れると、不動産会社から連絡がはいります。この段階では、まだ売買契約が成立したわけではありません。金額や契約条件、支払いの方法、引渡し希望日などをチェックして、納得したら後日、売買契約を結ぶことになります。
契約を終えると安心して気が抜けがちですが、もうひとつ重要なのは、引渡し日に遅れずにマンションを引き渡すこと。引越しや清掃が必要な場合は、余裕を持って進めておきましょう。7. 確定申告
マンション売却で利益が出た場合、譲渡所得税・復興特別所得税・住民税がかかります。このうち、確定申告が必要なのは譲渡所得税と復興特別所得税であり、この申告に基づいて、住民税が課税されます。
申告期間はマンションを売却した翌年の2月16日~3月15日(申告期限が日曜日の場合は、その翌日が期限となります)に、税務署に確定申告書類を提出します。また、確定申告時には、次のような書類の提出が必要となりますので、申告時期になって焦らないように事前にそろえておきましょう。
マンション売却までの流れを押さえた上で、次にマンション売却にかかる費用を見ていきます。
マンションを売却する際は、仲介を依頼する不動産会社に支払う手数料や売却益にかかる税金など、さまざまな費用がかかり、「売却額=手元に残るお金」となるわけではありません。実際に手元に残る概算金額を知りたいときは、次の計算式のとおり、諸費用や税金を計算する必要があります。
マンション売却で手元に残る金額=マンションの売却代金-(諸費用+税金)
なお、マンションに抵当権が設定されている場合は、上の式からさらに「抵当権抹消登記手続きにかかる費用」が引かれます。また、住宅ローンの残りがある場合は、マンションの売却額からさらに「住宅ローンの返済にあてる費用」を引いた金額が手元に残るお金となります。
マンションの売却時にかかる諸費用
マンションの売却時にかかる「諸費用」には、契約書印紙代、仲介手数料、抵当権抹消費用(登記抹消費用・金融機関への事務手数料)、譲渡所得税(かかる場合とかからない場合あり)などがあります。今回は、諸費用の中でも代表的な「仲介手数料」について、まずご紹介します。「仲介手数料」とは簡単にいえば、売却を依頼した不動産会社に成功報酬として支払う手数料のことです。
売却を任せる不動産会社を選び媒介契約を結ぶと、その会社は自社のウェブサイトに物件の広告を掲載したり、自社の顧客で不動産を探している人に働きかけたりするなど、売却を成功に導くための営業活動を始めます。また、物件の案内など、購入希望者への物件の紹介も行ってくれます。なお、この仲介手数料は成功報酬のため、複数の不動産会社と媒介契約を結んでいる場合でも、売買契約が成立しなかった会社には、支払う必要はありません。
仲介手数料の金額は、宅地建物取引業法で上限が決められています。
この上限額は、厳密には、売買価格(税抜き)を「200万円以下の部分」「200万円超400万円以下の部分」「400万円超の部分」の3つに分けて計算します。マンションの売却時にかかる税金
マンションの売却時にかかる税金といえば、真っ先に「所得税」が思い浮かびますが、実はこれだけではありません。マンションの売却時にかかる税金には、どのような場合でもかかってくるものと、利益が出たときだけかかるものの2つがあります。
<どのような場合でもかかる税金>
マンションの売却時には、印紙税がかかります。印紙税とは、契約文書にかかる流通税であり、購入した印紙を「不動産売買契約書」に貼ることで納めます。マンションの買主様と、折半で負担するのが一般的です。
印紙税はマンションの売却価格によって異なり、例えば「1,000万円を超え5,000万円以下」の物件では20,000円です。ただし、2022年3月31日までに作成されるものには、軽減税率の適用があります。
<売却益が出た場合にかかる税金>
不動産を売却して利益が出た場合は、その利益に「譲渡所得税」「復興特別所得税」「住民税」の3つがかかります。つまり「マンションの売却価格-(マンション取得にかかった費用+売却にかかった費用)」がプラスであれば、その金額に対して税金がかかるのです。
ただし、売買対象の不動産が居住用マイホーム(自己住居用不動産)で、適用要件を満たす場合には、3,000万円の特別控除の利用が可能となり、プラス額が3,000万円以下なら課税対象となりません。なお、譲渡所得税、復興特別所得税、住民税の税率は、不動産を所有している期間が5年超なら「長期譲渡所得」、5年以下なら「短期譲渡所得」の税率が適用されます。
実年数ではなく「売却した年の1月1日現在の所有期間」で判断されますので、ご注意ください。それぞれの税率と内訳は次のとおりです。・長期譲渡所得の税率:20.315%
<内訳>
所得税(譲渡所得税+復興特別所得税):15.315%・短期譲渡所得の税率:39.63%
<内訳>
所得税(譲渡所得税+復興特別所得税):30.63%マンション売却の流れと、どのくらいの費用が発生するかの目処は、なんとなくついてきたでしょうか。
マンションは金額が大きい物だけに、ちょっとした心配りや準備の有無で、売却価格に数十万円、数百万円の差が出ることも珍しくありません。1 マンションを売却する理由を明確にする
「なぜマンションを売ろうと思ったのか?」という理由は、売却価格に無関係のように思えますが、売却計画や買い手探しに影響を及ぼす大事な要素です。
例えば「子供が大きくなって手狭になり引っ越すことにした。引越し先は決まっているため、売却は特に急いでいない」のであれば、仲介する不動産会社にその事情をしっかり伝えることで、買い手の安心にもつながります。また、不動産会社も「この物件は価格を下げて早く売るより、慎重に買い手を探すほうがいい」などの営業戦略が立てられます。2 相場を把握し適切な価格で売り出す
マンションの売出し価格を決めるのは売主様ですが、近隣の同レベルの物件価格より高い価格をつけてしまうと、当然ながら買い手がつきにくくなってしまいます。同じような場所、築年数、間取りの物件を見つけて売却価格を調べたり、複数の不動産会社に査定を依頼したりして相場を把握し、そこから大きく逸脱しない適切な価格で売り出すことが大切です。
3 信頼できる不動産会社を探す
マンション売却をどの不動産会社に任せるかによって、売却価格や売却までにかかる期間は大きく変わります。「売却成功のカギを握る不動産会社の選び方」で紹介するポイントを参考に、信頼できる不動産会社を選んでください。
4 物件のアピールポイントを整理する
物件の査定価格は、不動産会社の担当者による訪問査定で最終的に判断されるのが一般的ですが、周辺に活気に満ちた商店街がある、子育て環境が充実しているなど、実際に住んでいた人にしかわからない情報もあります。家の売却を決めたら、第三者から見たアピールポイントを整理して、しっかり担当者に伝えられるようにしておきましょう。
5 購入検討者との信頼関係を築く
購入検討者は、物件の状況を確認するために内覧されます。実際にマンションを見に来た際には良い印象を持ってもらうためにも、事前に部屋の整理整頓を行い、購入検討者から質問が出た場合は丁寧に対応することを心掛けましょう。
先に挙げた5つのコツのうち、「信頼できる不動産会社を探す」ことについて、もう少し詳しくご説明します。
不動産会社選びに失敗し、売主様の利益より自社の利益のために行動する会社を選んでしまうと、相場よりも低い価格でしか売れなかったり、売れるはずのタイミングで売れなかったりといった不利益を被ってしまう可能性があります。注意すべき不動産会社の特徴
まず注意すべきは、売主様が他社と専属専任媒介契約(売却を1社だけに任せる契約)や専任媒介契約(売却は1社に任せるが、自分で買い手を見つけて売買契約を締結することもできる契約)を結んでいるのを知りながら、売主様に「うちのほうがいい条件で売れますよ。うちと媒介契約を結びませんか」と働きかける不動産会社です。
売主様がA社と専属専任または専任媒介契約を結んでいる場合、不動産会社B社の顧客で「このマンションを買いたい」という人が出たときは、B社はA社に連絡して、A社を通して購入希望者を紹介するのが本来のやり方です。
この形で成約に至った場合、B社の収益は購入者からもらう手数料のみであり、売主様が支払う手数料はA社の収益となります。しかし、このような取引きは、報酬面で見るとB社にとってベストとはいえません。B社としてみれば一番収益が上がるのは「B社が媒介契約を結んだ物件を、B社の顧客が買ってくれる」売買であり、この場合は売主様・買主様の双方から手数料収入が入ることになります。このような取引きを「両手取引」と呼びます。
一概に両手取引のすべてが悪いということではありませんが、両手取引のみにこだわる不動産会社に売却を任せてしまうと、他社から購入希望者の紹介があっても「商談中なので案内できません」と断ったり、買主様の条件に合わせて売却価格を低く設定する可能性がありますので注意が必要です。
また、売主様がA社と専属専任媒介契約または専任媒介契約を結んだ状態で、さらにB社とも媒介契約を結んでしまうと、A社に対する契約違反となってしまいます。不動産会社の「免許番号」と「行政処分歴」を確認する
不動産売買の仲介業務は「宅地建物取引業免許」なしではできませんが、中には無免許で営業している悪質な会社も存在します。そのような業者と契約してしまわないよう、不動産会社と契約する際は、事前に免許番号を確認することも大切です。
東京都市整備局など、免許を交付した行政庁に行けば「宅地建物取引業者名簿」の閲覧ができ、過去の実績や行政処分の履歴もわかるため、不動産会社選びの参考になります。一括査定からも不動産会社の良し悪しがわかる
物件の訪問査定を依頼することも、信頼できる不動産会社選びの手掛かりになります。
上記のような点がないかどうか、訪問査定の際にチェックしましょう。
仲介を依頼する不動産会社を選び、その会社が誠実に営業活動を展開したとしても、マンションの売却価格は売りに出すタイミングによって変わってきます。
「季節」から見た売却タイミング
マンションの売却価格は、季節によっても多少変動します。日本は4月から新学期・新年度が始まることから、移動に合わせて1~3月に住宅を購入する人が多いです。
購入希望者が多い分、特に売却時期にこだわりがなければ1~3月頃に売却できるのがベストといえそうです。「税制」から見た売却タイミング
前述しましたが、マンションの売却益にかかる所得税の税率は、物件を所有した期間によって異なります。「不動産を所有した期間が5年超」であれば、長期譲渡所得と呼ばれる税率が適用され、所得税・復興特別所得税15.315%と住民税5%がかかります。
「不動産を所有した期間が5年以下」であれば、短期譲渡所得と呼ばれる税率が適用され、税率は所得税・復興特別所得税30.63%、住民税9%となります。ですから、売却のタイミングとしては、5年を超えるまで待つのがおすすめです。
ただし、3,000万円の特別控除の適用要件を満たした居住用マイホ-ムの売却の場合には、売却益が3,000万円以下であればどのタイミングで売却しても違いはありません。
最後に、マンション売却に関するよくある質問をまとめてご紹介します。
マンション売却にはどのくらいの期間がかかる?
マンションを売りに出す時期や、物件の状態によって違いはありますが、マンション売却にかかる期間の目安は3ヶ月~半年程度といわれています。とはいえ、平均的な期間よりも、大切なのは「いつまでに売りたいか」「多少安くなっても早く売りたいか」「時間がかかっても納得する価格で売りたいか」という売主様の希望です。
このような希望が売却プランの基本となるため、初めにしっかり決めておきましょう。売却するのと賃貸に出すのとでは、どちらが得?
マンションの活用法として、売却する以外に賃貸に出す方法も考えられます。毎月家賃収入が入ることを考えれば、賃貸のほうが良さそうに思えますが、空き室になるリスクがあったり、管理費や修繕積立金などの維持費が毎月必要になったり、さらに、賃貸中に市況の変化などが起こったりすることも考えなければなりません。
現在の市場相場を踏まえた上で、今売るべきか、賃貸に出しつつタイミングを待つか、慎重に判断しましょう。住宅ローンが残っている場合でも売却できる?
住宅ローンが残っていても、売却代金で完済するなど、買主様に引き渡すまでに完済できる場合、売却は可能です。完済できない場合でも、「買い替えローン」などを利用して売却する方法はあります。しかし、完済してから売却する場合に比べて費用がかさむこともあります。
マンションを売却する際は、売却の流れや注意すべきポイントを知っているかどうかで、数十万円、数百万円の違いになることも珍しくありません。
逆にいえば、知識があれば得をする可能性もありますので、まずは全体像を知るところから始めてみてください。土地を売る時のポイントについて詳しく知りたい方は、こちらもお読みください
公認 不動産コンサルティングマスター・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
株式会社 髙野不動産コンサルティング 代表取締役、株式会社 アーキバンク 取締役。不動産会社にて600件以上の仲介、6,000戸の収益物件管理を経験した後、不動産ファンドのAM事業部マネージャーとして従事。現在は不動産コンサルティング会社を立ち上げ、投資家や事業法人に対して不動産コンサルティングを行いながら、建築・不動産の専門家で形成される株式会社アーキバンクの取締役として、業界において革新的なサービスを開発・提供している。
池田 浩一
三重県鈴鹿市出身。名城大学商学部を学術奨学生として卒業する。大阪市内の不動産会社に勤務後、32歳で独立、現在の有限会社ハウスコム代表取締役に就任。
宅地建物取引士、マンション管理士、管理業務主任者の資格を保有し、居住用・事業用不動産の売買、仲介、管理業務を中心に経験を積む。特に任意売却、相続案件、離婚による財産分与案件等を得意とする。
現在は「次の時代に生き残る不動産、勝ち残る不動産業者」をテーマに、事業家、地主を対象に不動産投資、資産運用等、コンサルティング業に力を入れている。著書に「知りたいことが全部わかる!不動産の教科書」(株式会社ソーテック社)がある。
最後までお読みいただき、
ありがとうございます。
ご回答ありがとうございました。