世界各国で、未曽有の大混乱を巻き起こしている新型コロナウイルス感染症。日本の不動産市場にもコロナショックと呼ぶべき影響が出ています。その影響が色濃く表れ始めたのは2020年3月以降です。
「緊急事態宣言」下の5月、首都圏において投資用マンションとして新規発売された供給数は393戸でした。前年同月の供給数が2,206戸であったことに比べると、82.2%も減少し、単月としては不動産市場において、過去最低の供給数を更新しました。
まずは、新築マンションの供給戸数から見ていきましょう。2018年頃の日本における不動産市況は、インバウンド政策の影響により都心部では地価が高騰。民泊として利用する投資用物件の流通なども盛んで、好調でした。しかし、2019年10月には消費税増税があり、それにともなう日本全体の消費の落ち込みから、かげりが見え始めます。その後、新型コロナウイルス感染症が拡大し、新築マンションの供給戸数は明確にマイナスとなっていきました。
2020年3月以降は、このマイナスの状態が顕著に表れましたが、緊急事態宣言が解除された2020年6月以降は消費需要の反動からか、急激に回復に向かいました。ただし2020年7月以降、一都三県での感染者数が急増しました。具体的な改善策が存在しないことから、今後の見通しは不透明といわざるを得ません。
中古マンションの市場を見ると、2018年頃までの成約件数は横ばいですが、販売価格は約6年間連続で上昇傾向にありました。しかしその後は、中古市場においても2019年の消費税増税や、2020年の新型コロナウイルス感染症の影響によって、市況はマイナスへと転じています。中古市場では2020年6月もマイナスの状態にありましたが、減少幅は5月と比べると縮小する形となりました。
中古マンションの供給件数は、年々増加傾向にありました。新型コロナウイルス感染症の影響を受け、成約件数が減ったのは前述のとおりですが、登録件数も同じく減少傾向にあります。
ただし、緊急事態宣言が解除された6月以降においては、中古マンションの新規登録件数が増加し始めます。埼玉県では9ヶ月ぶりに前年比を超える登録件数となりました。そのほか多くの地域でも登録件数の減少幅は縮小傾向にあり、成約件数に比べて在庫件数のほうが多い状態になりつつあります。
国内における1990年代初頭のバブル崩壊と、世界経済に大きな影響を与えた2008年のリーマンショックは、日本の不動産市況における大きなターニングポイントでした。そしてコロナショックと呼ばれる2020年の状況も、それらと肩を並べる経済的ショックであるといえます。
ただしコロナショックは、前述した2つと比べると、「金融ではなくウイルスが原因」という明確な違いがあります。特に、リーマンショックとの類似点・相違点などをしっかり把握すれば、今後の不動産市況について、ある程度予測ができるでしょう。
リーマンショックとは、2008年9月にアメリカの大手証券会社であるリーマンブラザーズの経営破綻がきっかけで起こった金融ショックです。これによる不動産市況へのダメージは大きく、直後の2008年10月から2009年2月頃までは、中古マンションの成約件数が前年割れしました。
しかし、2009年度全体では、中古マンションの成約件数は好調に転じました。リーマンショック以前の中古マンション成約件数は2万件台でしたが、2009年度は初の3万件台になったのです。
これは、経済的に大きな打撃を受けたため、手頃な価格で購入しやすい中古マンションの購入件数が伸びたことに起因していると考えられます。
リーマンショックによって中古マンションの成約件数が一時的に落ち込んだことにともない、1平米あたりの単価も下落しました。
しかし、中古マンションの平米単価は、リーマンショック以前の2007年頃から下降基調にありました。東京23区に限定すれば平米単価は順調に上昇傾向でしたが、関東圏全体では下落が続いており、さらにそこへリーマンショックが起きたことで、全体的な価格が低迷したのです。
その後、リーマンショックから1~2年は価格の下降基調が継続していましたが、2010年には再び上昇傾向となり、安定した推移を取り戻しました。
リーマンショック直後、中古マンションの成約件数や平米単価は、大きく下落。リーマンショックは不動産市場全体にマイナスの影響をおよぼし、日本の不動産市況は数年間で厳しい状態に突入しました。
中古マンションの市場は1~2年と比較的短期間で持ち直し、平均価格はプラスに転じていましたが、それでもしばらくの間、価格は低調な状態でした。つまり、居住用などの実需のある不動産は、比較的購入しやすい価格の中古不動産に限って手堅く取引されていたと読み取れます。
ここで注意したいのが、バブル崩壊やリーマンショックと、コロナショックの性質の違いです。バブル崩壊・リーマンショックは、金融市場の混乱が招いた恐慌です。コロナショックの原因は、新型コロナウイルス感染症を恐れた各個人が移動を控え、消費を抑えたところにあります。
コロナショックでは、飲食などのサービス業界の営業自粛や撤退をはじめ、リモートワークの導入、就業形態の変化など、いわば社会の在り方そのものの変革を迫られています。つまり、バブル崩壊・リーマンショックはあくまで金融業界が打撃を受けたものであり、コロナショックのように、さまざまな業界に大きな影響をおよぼすという性質ではなかったのです。
2019年の消費税増税によって景況感悪化の傾向があった最中、追い打ちのような形で起こったコロナショック。こうした背景を考えると、バブル崩壊・リーマンショックによる不況よりも、影響が長引くことが考えられます。
また、内閣府から発表される実質GDPも、緊急事態宣言下となった2020年4月~6月において約28.8%の大幅なマイナス成長となると予測されています。アメリカやドイツのGDPも4月~6月期に大幅なマイナスが発表されているため、「コロナショックはリーマンショックよりも厳しい状況にある」という専門家の意見も見られるようになりました。
現在、国内の中古マンション市場では、成約件数の減少幅が縮小している地域が多く見られます。しかし、新型コロナウイルス感染症の猛威が収まる見通しはいまだ立っていません。本格的な回復期にあるとの判断は難しく、居住用不動産への影響に関しても予断を許さない状況といえるでしょう。
コロナショックがもたらす不動産市況への影響が大きいのは事実です。しかし詳細に見ていくと、その影響の度合いは不動産の価格帯やエリアによって異なる様相を呈しています。特に、高価格帯のタワーマンションや、都心から離れた立地の物件などに対してはその影響が大きく見られますが、中価格帯以下で駅近・都心などの好立地にある居住用の物件に関しては、手堅い需要の継続が予測できます。
首都圏における中古マンション成約物件の平米単価は、2020年3~4月は下落したものの、緊急事態宣言が解除された6月には、すべての地域において前年同月比でプラスとなりました。
平米単価が下落したのは、緊急事態宣言が発令された4月。特に千葉県・神奈川県・埼玉県などの郊外において大幅な下落が見られました。6月にはこれらの郊外においても平米単価は前年同月比プラスとなりましたが、その上昇幅は地域によってかなりの差が出ています。首都圏の中でも東京都に絞った場合、その中古マンション平米単価の下落幅は小さく、5月からはすぐ前年比プラスに持ち直しているのです。
このことから、コロナショックによる平米単価の変動は、郊外であるほどにその下落幅が大きく、立地条件のいい都心や多摩などの地域においては比較的値動きの影響が少なく、安定状態に戻りやすい傾向が読み取れます。
これまでの日本国内における不動産市況は、成約物件や新規登録件数に波があるものの、投資目的での高価格帯物件の取引件数が、価格上昇の一助となっていました。実際、不動産価格は2012年から右肩上がりに成長し続けてきました。
しかし、その成長は、全世界のあらゆる経済に影響を与えると予想されるコロナショックで停滞する可能性があります。これまで成長期にあった投資用マンションやタワーマンションなどの高価格帯物件に関する需要の変動も懸念されるでしょう。
ただ一方、中価格帯以下で実需のある居住用物件に関しては、ここから1~2年の間に需要が復活するという見立てもできます。
コロナショックがいつまで続くのかは、誰にも断言できません。リーマンショックを例にとって考えると、1~2年で回復の兆しが見え始めていたため、不動産価格の下落期に突入しているここ1~2年が買いどきと考えられます。
しかし、コロナショックの先行きが不透明であることに加え、地域や物件の価格帯では影響の度合いに違いもあります。こういった背景から、不動産の買いどき・売りどきについてはさまざまな状況を加味して慎重に判断することが重要だといえるでしょう。
一時的にコロナショックが収束したとしても、また感染が拡大することも考えられます。急に価格が上昇傾向となることも期待しづらいため、有利に売却したいと考えるのであれば、売りどきはまだ先になると考えておくほうがいいでしょう。
不動産価格はこれまで上昇傾向にあったものの、コロナショックによって下降傾向に転じました。しかし、緊急事態宣言が解除されてからはそのマイナス具合も落ち着いており、プラスに転じている地域もあります。
そして、在庫件数についてはこのコロナショックの最中でもほぼ横ばいに推移していることから、今の状況が「買いどき」であるといえます。これには、フラット35における住宅ローンの金利が低い水準で推移しており、住宅ローンが組みやすいため、従来よりも買いやすいという要素も含んでいます。
しかし、これについては「もともと低金利だったところに、コロナショックが起こった」という点に注意が必要でしょう。リーマンショック時には高かった金利を引き下げることが、経済を復調させる1つの要因となりましたが、今は、もともと金利が低い状態が継続していたため、金利面で考えると、買いどきであるとは断言できません。
一方で、コロナショックの収束時期が早ければ早いほど、抑制されていた住宅の買い替えニーズが高まり、価格が高騰することも考えられるため、慎重になりすぎていては買いどきを失ってしまう恐れもあります。
緊急事態宣言が解除された6月以降、さらに感染が拡大したため、売りの需要が乏しい状態が続くことも考えられます。そのため、このコロナショック下において新規に購入を考えるのであれば、「数年以上は再売却しない」という条件での購入をおすすめします。このコロナショックはまだまだ続くことも考えられますし、なかなか需要が伸びず、ベストな売りどきが相当先になる可能性があるためです。
その根拠の1つとして、現在も不動産価格が下落傾向にある地域が存在することが挙げられます。2020年の今から考えると、ベストな売りどきは2019年3月頃だったと考察できますが、これはリーマンショックから約10年が経過したタイミングです。今まさにリーマンショックのような大規模な経済危機がコロナショックによってもたらされているため、この先10年ほどはベストな売りどきが訪れないとも考えられるでしょう。
また、中価格帯以下の不動産は底堅く安定しているように見えますが、現時点で安定的な好況トレンドにつながるような要素があるわけではありません。ベストな売りどきを待っている間に、築年数や地域の情勢の変化などといった別の要因で不動産価値が下がってしまうこともあり得ます。
コロナショック収束の時期の見通しが立たない以上、「ベストな売りどき」がすぐに訪れる可能性は低いため、特別な理由がないかぎりは売り急ぐべきではありません。広い目線で経済的な動向を見据えつつ、自分の不動産を売りたい理由・状況などの個別的な要因とのバランスを比較検討し、売りどきの見定めが必要な市況といえるでしょう。
新型コロナウイルス感染症に端を発する経済停滞は、日本国内における不動産市場だけでなく、全世界のあらゆる業界に多大な影響をおよぼしています。2020年4月に発令された緊急事態宣言により一時は感染者も減少しましたが、6月に緊急事態宣言が解除されたあと、首都圏などでの感染者数は増加の一途をたどっています。こうした中では、不動産価値は今後も下落してしまう可能性も十分に考えられます。
しかし、過去に起こった世界的な経済危機であるリーマンショックを例に考えると、大規模な経済の停滞から1~2年で再び上昇傾向に戻る見方をすることも可能です。ただし、リーマンショックとコロナショックでは根本的に経済停滞の原因が異なり、地域や価格帯など、不動産の特性があるため、現在の不動産市況はまったく異なったものとなっています。
以上のように、さまざまな状況や過去の不動産市況の推移から、現在は不動産の買いどきであるという見方はできますが、おすすめの売りどきであるとは断言できないでしょう。
常に変化し続ける状況の中、不動産の購入や売却を考えるのは難しいものです。刻一刻と変化する最新情報を手に入れ、焦らず慎重に判断できるよう、専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
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吉田成志
宅地建物取引士
宅地建物取引士、ファイナンシャル・プランナー、マンション管理士、消防設備士などの資格を保有。専任の宅建士として不動産仲介会社に従事した後、マンション管理士・消防設備士として独立。宅建士をはじめとした幅広い知識や経験を生かし、不動産売買や賃貸時に気になる疑問点の相談なども担当している。
最後までお読みいただき、
ありがとうございます。
ご回答ありがとうございました。