不動産売却によって、利益が出ることもあれば、損失が出ることもあります。その損益分は課税対象で確定申告が必要なのでしょうか。ここでは、確定申告の仕組みについて解説します。
不動産を売却して売却益が出たら納税の義務があります。
不動産の売却益は「譲渡所得」に分類され、その金額に応じた所得税と住民税を納めなければなりません。不動産売却による所得は「分離課税」と呼ばれ、給与所得や事業所得によって得た利益など「総合課税」として扱う所得とは区別して計算します。
後で詳しく解説しますが、所有年数に応じた税率をかけて税額を算出します。
不動産を売却して売却益が出なかった場合、必ずしも確定申告はする必要がありません。税金は黒字に対して課されるもので、赤字になれば課税の対象額が存在しないからです。
しかし、義務ではないとはいえ、自宅の売却損が生じた場合は確定申告をしたほうがいいでしょう。確定申告することで、一定の要件を満たせば、給与所得や事業所得として損益通算して所得税と住民税を減らすことができます。また、条件によっては繰越控除などができる特例の適用を受けることができます。
損益通算とは不動産売却によって出た赤字分を確定申告することで給与所得から差し引き、所得税と住民税の課税対象額を減らせることです。繰越控除とは、本年分の損失を控除しきれないときに、翌年以降にその損失を繰り越して翌年以降の利益から控除することができる制度です。
不動産売却によって損失が出ても、得られるメリットがあるため、確定申告はしたほうが賢明といえます。
家を売って売却益が出ると、税額はどのくらいになるのでしょうか。課税対象額となる「譲渡所得」はどのように計算するのか、5,000万円で買った家が6,000万円で売れたときのケースで解説します。
不動産を売却したとき、売却益に対して発生する税金を「譲渡所得税」といいます。譲渡所得税とは、所得税と住民税の合計で、東日本大震災からの復興を目的として所得税の2.1%を納める復興特別所得税も含まれます。復興特別所得税は2037年まで徴収されます。
譲渡所得税を計算するには、課税対象である「譲渡所得」をまず算出します。譲渡所得は以下の計算式で求めます。
前出の物件取得費とは、物件の購入代金に諸費用の金額を加えた購入のためにかかったすべての金額から、建物部分の減価償却費相当額を差し引いたものです。減価償却費とは、不動産の購入代金のうち建物部分にかかった代金を元に計算します。計算方法は以下のとおりです。
耐用年数と償却率は、国税庁によって以下のとおり定められています。
建物の構造 | 非事業用(居住用) | 事業用(アパート、賃貸マンション) | |||
---|---|---|---|---|---|
償却率 | 耐用年数 | 償却率 | 耐用年数 | ||
木造 | 0.031 | 33 | 0.046 | 22 | |
木骨モルタル造 | 0.034 | 30 | 0.050 | 20 | |
鉄骨造 | 骨格材の肉厚が3ミリ以下 | 0.036 | 28 | 0.053 | 19 |
骨格材の肉厚が3ミリ超4ミリ以下 | 0.025 | 40 | 0.038 | 27 | |
骨格材の肉厚が4ミリ超 | 0.020 | 51 | 0.030 | 34 | |
鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造 | 0.015 | 70 | 0.022 | 47 |
〈建物の耐用年数と償却率〉
譲渡所得税の税率は、物件を売却した年の1月1日の時点での所有期間が5年を超えているか、5年以下かによって変わります。売却物件の所有期間が5年を超えている場合は「長期譲渡所得」、5年以下の場合は「短期譲渡所得」と呼ばれます。それぞれ以下の計算式で求めます。
居住用の新築マンション(鉄骨鉄筋コンクリート造)を5,000万円(土地部分2,000万円、建物部分3,000万円(消費税込))で買った方が6,000万円で売却したケースを、長期(8年)と短期(2年)にわけて考えてみましょう。売買時にはいずれも諸費用が200万円かかったとします。なお、次の章で述べる特別控除の適用についてはこの計算では考慮しないものとします。
まず物件取得費を計算します。表を参照すると、鉄骨鉄筋コンクリート造のマンションの減価償却率は0.015なので、これを加味して建物取得費を出し、土地の値段2,000万円を加えます。
次に、譲渡所得を計算します。
この譲渡所得に、それぞれ税率をかけて、譲渡所得税を算出します。
5,000万円のマンションを8年所有して6,000万円で売った譲渡所得税は約188万円、2年所有した譲渡所得税は約270万円と、その差は約82万円となりました。購入価格と売却価格が同じでも、譲渡所得が出る場合、長く住んだほうが譲渡所得税は低くなることが分かります。
不動産を売却して確定申告するとき、一定の条件を満たすことにより納税額を減らせる特例があります。そのうち主な特例2つを解説します。
自宅として利用していた居住用不動産(マイホーム)を売却した場合、居住期間の長さと関係なく、その際に発生した譲渡所得が最高3,000万円までの控除を受けられます。その条件は以下のとおりです。
※住宅借入金等特別控除については、入居した年、その前年又は前々年に、このマイホームを売ったときの特例の適用を受けた場合には、その適用を受けることはできません。
また、住んでいた家屋または住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の要件をいずれも満たしていることが必要です。
これらの条件を満たし、譲渡所得が3,000万円以内であれば、譲渡所得税は発生しない可能性があります。多くの方に当てはまりやすい特例なので、必ず確認しましょう。
上記の3,000万円の特別控除を適用してもなお譲渡所得がプラスになるとき、マイホームの所有期間が売却した年の1月1日時点で10年を超えていた場合は、譲渡所得にかかる税率に軽減税率が適用されます。税率は譲渡所得が6,000万円超えか、6,000万円以下によって変わります。以下の表のとおりです。
譲渡所得 | 所得税率 | 住民税率 | 合計 |
---|---|---|---|
6,000万円以下の部分 | 10.21% (所得税10% + 復興特別所得税0.21%) |
4% | 14.21% |
6,000万円超の部分 | 15.315% (所得税15% + 復興特別所得税0.315%) |
5% | 20.315% |
〈3,000万円特別控除の適用後の軽減税率〉
※表の譲渡所得は3,000万円の特別控除の適用後
※復興特別所得税は2037年までの所得税に対して加算されます
確定申告の手続きは税務署窓口で申告書を提出するか、記入した申告書類を郵送するか、インターネット上で作成から申告までが完結するe-Tax(国税電子申告・納税システム)の3種類があります。いずれも必要な情報や書類は同じですが、その入手先や書き方について解説します。
e-Taxは国税庁のサイト(https://www.nta.go.jp)の「確定申告等作成コーナー」の画面の案内に従って必要項目を入力すれば、確定申告に必要な書類を作成することができます。
譲渡所得の内訳書とは、売却した不動産の所在地や面積、売却金額、費用などを記入する書類です。税務署や国税庁の公式サイトで入手できます。
譲渡所得の内訳書は確定申告書付表兼計算明細書でもあります。不動産を売却したときにもらった契約書や領収書などに基づいて記載しましょう。手元に残っていない場合は、利用した不動産仲介会社に問い合わせてみましょう。
前述のマイホームの特例を受けるためには、条件をクリアしていることの証明が必要となります。売却の際に利用した不動産仲介会社でもらった書類を用意しましょう。法務局で入手するものもあります。
■3,000万円控除の特例を受ける場合
マイホームの3,000万円特別控除 |
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必要書類
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■軽減税率の特例を受ける場合
所有期間が10年超えの場合の軽減税率 |
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必要書類
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不動産の売却益は申告分離課税のため、給与所得や事業所得などの総合課税用の確定申告書Bとは別に「分離課税用の申告書(第三表)」を作成します。
この書類も税務署や国税庁のサイトにあります。不動産売却のときに不動産仲介会社からもらった売買契約書や領収証などをよく見て記入しましょう。
給与所得や事業所得といった総合課税を申告するための確定申告書B(第二表)も作成します。この書類も税務署や国税庁のサイトにあります。
確定申告書Bには本人確認書類の写しを添付する必要があります。マイナンバーカードの表面と裏面の写しを貼り付けるか、マイナンバーカードを持っていない場合は番号確認書類(マイナンバーの通知カードかマイナンバー付き住民票の写し)に加えて、身元確認書類(運転免許証やパスポート、公的医療保険証など)のいずれも写しを貼付します。
以上の書類に記入し、2月16日から3月15日まで(その年によって日程が異なることもあります)に税務署に提出します(還付を受けるための申告である場合はその年の翌年1月1日から行うことができます)。提出先は「納税地の税務署」になります。
申告書は郵送で送付するか、所轄の税務署へ直接持参するか、e-Tax(国税電子申告・納税システム)で申告します。
納税が必要な場合は、申告時期と同じ期間中に納付します。期限までに全額納税できない場合は延滞税がかかりますが、半分以上の金額を期間内に納税すれば、残りの税金は5月31日まで延納できます(利子税がかかります)。延納する場合は、確定申告書に延納届出額と申告期限までに納付する金額を記載する必要があります。
納税は現金や口座振替、クレジットカードなどで納付し、還付を受ける場合は申告書に記入した金融機関の預金口座に振り込まれます。なお、クレジットカードで納付する場合は所定の決済手数料が必要です。
無申告だったり、期限後申告をしたりすれば、納税額に応じて無申告加算税が課されることがあります。無申告加算税は、原則として、納付すべき税額に対して、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%をかけて計算した金額です。ただし、税務署の調査を受ける前に自主的に期限後申告をした場合は軽減されます。
以上、不動産売却の総仕上げとして確定申告が必要な理由を解説してきました。不動産売却で課される譲渡所得税の計算方法や控除の特例などについての知識があれば、確定申告の手続きをスムーズに進めることができますし、節税することもできます。
確定申告には3月15日という期限があります。申告のためには必要な書類も多く、用意するためには時間がかかります。また、売却が年末に近くなると、申告作業にあてられる時間も少なくなります。あわてないためにも、前もって書類を用意しておきましょう。
不動産売却を最後まで完了させるには、物件の引き渡しだけではなく、その後のこともいろいろと相談できる不動産仲介会社を探す必要があります。不動産業界をリードする大手6社が運営する不動産売却の一括査定サイト「すまいValue」を利用して探してみてはいかがでしょうか。
髙野 友樹
公認 不動産コンサルティングマスター・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
株式会社 髙野不動産コンサルティング 代表取締役、株式会社 アーキバンク 取締役。不動産会社にて600件以上の仲介、6,000戸の収益物件管理を経験した後、不動産ファンドのAM事業部マネージャーとして従事。現在は不動産コンサルティング会社を立ち上げ、投資家や事業法人に対して不動産コンサルティングを行いながら、建築・不動産の専門家で形成される株式会社アーキバンクの取締役として、業界において革新的なサービスを開発・提供している。
川口 拓哉
税理士(近畿税理士会)。2017年の税理士試験で官報合格。個人の税金から法人の税金までの幅広い税目について知識と実務経験を有する。
最後までお読みいただき、
ありがとうございます。
ご回答ありがとうございました。