所有する不動産、とくにマイホームを売却するタイミングは、出産や子育て、転勤・転職など自分と家族のライフイベントにともなうことが多いです。そのようなさまざまな事情により売却しなければならないという制約がある中でも、より良い条件で、しかもできるだけ早く売る必要があります。
では、不動産の売却に適したタイミングとはいつなのでしょうか。以下にて、解説します。
不動産の価格は、景気動向や経済情勢の影響を受けやすい傾向にあります。一般的に、景気が悪くなると不動産価格は下落し、反対に景気が良くなると上昇します。不動産の売却のタイミングでは、不動産価格の右肩下がりが続いている場合は早く売却し、反対に右肩上がりが続いている場合は、様子を見ることをおすすめします。価格の横ばいが続くなら、いつ売っても変わりません。
不動産価格の中でもマンション価格は、日経平均株価と相関する傾向にあります。2022年2月1日現在の日経平均株価について、2012年から10年間の推移を追うと、一時的に株価が下落している時期はありますが、基本的に右肩上がりにあります。
出典:日経平均株価推移
一方、国土交通省は4半期ごとに住宅不動産価格指数の推移を発表しています(下図)。令和3年(2021年)10月の不動産物価指数では右肩上がりが継続しています。特にマンションでは顕著な右肩上がりとなっていて、2021年になってさらにその傾向が強まっていることが分かります。日経平均株価もマンション株価指数も最近10年間右肩上がりに推移していて、両方が 相関していることが分かります。
国土交通省の不動産価格指数は2010年時点の不動産価格を100とした指数で、マンションは2021年10月時点で165.9(速報、季節調整値)となっており、11年を経て65.9%値上がりをしていることになります。マンションの値上がりは特筆すべきもので、住宅地の104.2、戸建て住宅の108.7、店舗の144.0、オフィスの146.7と比較してもその高さがわかります。
マンションの売却は一番好景気のときに売り出すのがベストですが、現在がピンポイントでベストタイミングなのかどうかの判断はプロでも分かりません。一般論として、現在(2022年2月)は高値圏内にあります。
4月の新年度開始に向けて、転勤や進学などで毎年2~3月は引越しの時期となり、住み替え需要が増えます。賃貸物件だけでなく、売買物件も成約件数が伸びます。1年の中で2月~3月は不動産の取引件数が多くなり、売り時といえるでしょう。
自宅の売却を考える場合、早めの準備が必要です。例えば2月までに自宅を売却したい場合、1月後半には購入希望者がいる状態にすることが重要です。それには、前年の年末前から売却の準備を進める必要があります。準備が遅れると、需要のある時期が過ぎて売却条件が悪くなってしまいます。売却を急がない場合は、次の需要のピークまで売却するのを待つというのも1つの方法です。
一般的に、不動産は経年変化によって価値が下がります。自宅を高く売りたい場合は、築年数が浅いうちに、なるべく早く売却するのが原則です。しかし、戸建て住宅とマンションでは価値の下落のスピードが異なります。以下にそれぞれの売却時期をみてみましょう。
戸建て住宅は木造住宅が多いですが、鉄筋コンクリート造りのマンションなどに比べると、資産価値が下落するスピードが早い傾向にあり、高く売りたい場合は、築年数が浅いうちに売却する必要があります。
以下は、国土交通省がまとめた、「中古戸建住宅の価格査定の例」になっており、木造戸建て住宅の査定価格の下落スピードが早いことを示しています。
戸建て住宅は築20年を超えると、買主様の住宅ローン控除の要件が厳しくなるので、ローン控除が利用できる間が売却しやすいといえます。築20年超の場合は、①耐震基準適合証明書を取得する、②既存住宅売買瑕疵保険に加入する、③建設住宅性能評価書の交付を受ける、のいずれかが必要になります。
この耐震基準適合証明書は、原則売主様が発行してもらうので、建物の引渡し前に証明書の発行申請をすませておかなければなりません。取得にかかる費用は耐震基準適合証明書の取得に5万円前後、耐震診断の受診に10万円前後が必要になります。取得には1ヶ月程度必要です。
既存住宅売買瑕疵保険は、買主様に対して中古物件の雨水漏れ防止性能や構造耐力性能などを保証する保険で、保険契約を締結していることを証明するのが保険付き証明書です。取得費用は無料で、取得には約1週間必要です。保険付き証明書を利用する場合は、引渡し前に保険契約をすませることが必要です。
もし耐震判断や瑕疵保険加入前の審査で不具合が見つかると、補修工事が必要になり、売買金額に影響が出るので、売主様と買主様で事前に決めておく必要があります。
住宅性能評価とは、国土交通大臣に登録した第三者評価機関が全国共通ルールのもと、住宅の性能を公平な立場で評価するものです。評価は1~5等級で表示され、建設住宅性能評価書の交付を受けます。
評価書の交付を受けるためには数万円から数十万円の手数料がかかります。
マンションは戸建て住宅より下落のスピードは遅いといわれることが多いです。東日本不動産流通機構の調査(※)によると、中古マンションの需要についても、築25年以下で高くなっており、「対新規登録成約率」(成約件数/新規登録件数)は築30年超の築年帯を除き上昇傾向にあります。
※出典:東日本不動産流通機構 築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2020年)
中古マンションでは、築0~5年の場合、新築と変わらないという買い手の気持ちが働くので、高く売りやすくなります。人気があるのは、買主様にとって値ごろ感が出る築10~20年程度のマンションです。ただ、マンションの見栄えも悪くなってくる時期でもあるので、古いという印象を与えることもあります。マンションでは管理体制が整っていることが大事になります。
築年数が20年以上になると、キッチン・風呂など設備の劣化や、間取りが流行から外れるなど古さが問題になってきます。リフォームするなどの工夫が必要になります。築30年を超えた物件の場合は、大規模な修繕工事も必要になり、価格も下落する傾向にあります。
住宅ローン控除の要件では、マンション(耐火建築物)は築25年を超えると耐震基準適合証明書が必要になります。原則、売主様が引渡し前に発行申請をすませておく必要があります。
住宅ローンの金利が低いときのほうが、高金利の時よりも売り時といえます。買主様が住宅ローンを組む際、金利が低いほど利息も少なく、ローンが組みやすくなります。金利が高い場合と低い場合では、最終的な支払額が大きく変わるので、低いほうが購買意欲は高まります。
住宅ローン金利は、平成2~3年頃には8.5%まで上昇しましたが、平成11年以降は、日銀の金利政策により低金利が続いており、今後も住宅ローンの低金利が続くと見られています。このため、低金利が続いている現在は、住宅ローンを利用して住宅が購入しやすいので、売りやすいタイミングといえそうです。
不動産を売却した場合、譲渡所得に対して所得税・住民税・復興特別所得税がかかります。これらの課税には、特別控除の優遇期間があり、期間を過ぎると控除が受けられなくなります。これらの税金の優遇期間も売却のタイミングとして気を付ける必要があります。
自宅の売却価格から取得費(土地建物の購入費用から建物部分の減価償却費相当額を控除した金額)と譲渡費用(売却に直接かかった費用)の合計額を差し引いた利益を譲渡所得
といいますが、これには所得税、住民税、復興特別所得税がかかります。これらを譲渡所得税と言うこともあります。しかし、不動産の売却益が3,000万円以上の場合は3,000万円が控除され、3,000万円以下であればその全額が控除されます。この制度を「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」と言います。
自宅を売る場合は、他の要件を満たせばいつでもこの特例を利用できますが、住んでいない空き家の場合、住まなくなってから3年目の12月31日までに売ることが必要です。この期間が過ぎると特別控除が適用されなくなるので気をつけましょう。
なお、住んでいた家屋または住まなくなった家屋を取り壊した場合、この特例を受けるには、その敷地の譲渡契約が家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、住まなくなった日から3年目の12月31日までに売るという要件と、家屋を取り壊してから譲渡契約の締結日まで、その敷地をほかの用途(たとえば貸し駐車場)に使っていないという要件の両方を満たすことが必要になります。
この特例を受けるには、不動産を売却した翌年の2月16日~3月15日の間に確定申告をすることと、確定申告に譲渡所得の内訳書など添付書類が必要になります。
土地・建物を売った譲渡所得には、所得税、住民税、復興特別所得税が課税されますが、その所有期間が5年を超えるか5年以下かによって税率が変わります。譲渡した年の1月1日における所有期間が5年以下の短期所有の場合、所得税率が30%、住民税率が9%、復興特別所得税率0.63%となりますが、譲渡した年の1月1日における所有期間が5年を超える長期所有の場合は、所得税率15%、住民税率5%、復興特別所得税率0.315%となります。
短期所有は長期所有に比べて、各税率がほぼ倍になります。3,000万円特別控除の特例を利用しない場合、所有期間が5年を超えてから土地・建物を売ったほうが得ということになります。
なお、譲渡した年の1月1日における所有期間が10年超の居住用住宅の場合、譲渡所得が6,000万円以下の部分に対しては、軽減税率の特例があり、所得税率は10%、住民税率は4%、復興特別所得税率は0.21%となります。なお、6,000万円超の部分は長期所有の税率は変わりません。
※復興特別所得税は2037年まで課税・徴収されます
相続した不動産などの財産を売却すると譲渡所得税がかかりますが、納付した相続税の一部を取得費に上乗せできる「相続税の取得費加算」の特例があります。この特例を受ければ、譲渡所得にかかる譲渡所得税を減らすことができます。ただし、この特例の適用を受けるためには、相続開始日から3年10ヶ月以内に不動産などを売却していることと、一定の書類を添えて確定申告することが要件となるので、売却の際は注意が必要です。
これまで見てきたように、不動産を売却するタイミングとして、景気動向や経済情勢、季節や時期、築年数、購入者が住宅ローンを組む場合の住宅ローン金利の動向、譲渡所得税の3,000万円控除特例や所得税など税金の優遇期間といったさまざまな視点から考える必要があります。
そのため、不動産売却のタイミングにも精通した専門家に意見を聞くことが望まれます。それは、不動産売却の力強いパートナーである不動産仲介会社にほかならないでしょう。
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髙野 友樹
公認 不動産コンサルティングマスター・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
株式会社 髙野不動産コンサルティング 代表取締役、株式会社 アーキバンク 取締役。不動産会社にて600件以上の仲介、6,000戸の収益物件管理を経験した後、不動産ファンドのAM事業部マネージャーとして従事。現在は不動産コンサルティング会社を立ち上げ、投資家や事業法人に対して不動産コンサルティングを行いながら、建築・不動産の専門家で形成される株式会社アーキバンクの取締役として、業界において革新的なサービスを開発・提供している。
川口 拓哉
税理士(近畿税理士会)。2017年の税理士試験で官報合格。個人の税金から法人の税金までの幅広い税目について知識と実務経験を有する。
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