まずは戸建ての売却を始めるまでの流れを把握しておきましょう。大まかに分けると①相場を自分で調べる②不動産仲介会社に査定を依頼する③不動産会社と媒介契約を結ぶ④売却活動を始める──の4ステップです。戸建てはマンションと比べて売却期間が長くなるケースが多いです。売却活動から引渡し完了まで、10ヶ月程度かかることもあります。
戸建てに限らず、物件を売却するときにまず知りたいのが「いくらで売却できるのか」ではないでしょうか。売却価格の相場は、自分で調べる方法と不動産仲介会社に査定依頼する方法の2つがあります。そして不動産仲介会社に査定依頼する方法は、店舗を訪れるパターンと、不動産一括査定サイトを利用するパターンの2つがあります。それぞれ解説します。
メンテナンスの状況にもよりますが、築20年を超えた家が建っている土地は「古家付き土地」と呼ばれ、土地の価格だけで売却されることが大半です。このため、住んでいる戸建てが築古の家の場合「土地の値段」と「売却価格の相場」は、ほぼ同額だと考えることができます。土地の価格を調べる方法は、以下を参考にしてください。
公示地価は国土交通省が発表します。「標準地」をもとに、複数の不動産鑑定士が調査を行い、その近隣一帯の価格を定めます。
基準地価は都道府県が発表します。「基準地」に対して1名の不動産鑑定士が調査を行い、価格が決定されます。
公示地価は毎年3月下旬、基準地価は毎年9月下旬に発表されます。「標準地・基準地検索システム」を利用することで、調べることが可能です。「標準地・基準地検索システム」では、日本全国の各標準地や基準地について、その価格はもちろん、広さや現況などについて、さまざまなデータが公開されています。システム上で「地価公示」と表記されているのが「公示地価」で「都道府県現地価調査」が「基準地価」です。
相続税路線価とは、相続税や贈与税を計算するときの基準になる土地の評価額のことです。相続税路線価は、公示地価の8割ほどになります。毎年1月1日時点で調べた評価額が7月に発表され、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で公開されている地図を見ながら、価格を調べることができます。
固定資産税評価額とは、固定資産評価基準をもとに各市町村が個別に決める評価額です。固定資産税の額を算出するうえでの基準となります。土地の固定資産評価額は、公示地価の7割ほどが目安とされます。所有している土地の固定資産税評価額について知りたい場合は、毎年5月ごろ土地の所有者に対して市町村から送付される納税通知書で確認ができます。各市町村の役所に固定資産評価証明書の発行を依頼することでも確認できます。
実勢価格とは前述の公的価格と異なり、実際に土地が売買されている価格で「時価」とも呼ばれます。国土交通省のWebサイトで公開されている取引事例や、不動産仲介会社が閲覧できる物件取引情報サイト「レインズ」に掲載されている成約事例などが実勢価格の参考となります。
実勢価格を調べる場合、まずは不動産仲介会社に直接問い合わせてみるのがおすすめですが、国土交通省が運営している「国土交通省 土地総合情報システム」でも調べられます。土地の広さ・地目・形状・接道状況などの情報とともに、坪単価や取引総額について細かく記載されています。
これまで土地の価格をもとに戸建ての売買価格を調べる方法を紹介しましたが、それほど築古ではなく、建物の価値が残っている場合は、レインズマーケットインフォメーションでも調べることができます。ここでは「レインズマーケットインフォメーション」で調べる方法を解説します。
レインズマーケットインフォメーションの「レインズ(REINS)」とは「Real Estate Information Network System」の略称で、不動産流通機構が運営する物件の不動産物件情報サイトです。こちらで調べれば、現在売出している物件情報や、過去の成約事例を閲覧することができます。「レインズ」は不動産仲介会社しか閲覧できないのですが、レインズマーケットインフォメーションは一般の方も閲覧できます。
調べられる情報は一部レインズとは異なりますが、売買しようとしている物件の周辺の成約事例を調べて、相場を把握することが可能です。
ここまでは自分で調べる方法を紹介してきましたが、不動産のプロに無料で調べてもらう方法もあります。代表的な2つの手法を紹介します。
不動産仲介会社は、全国展開している大手から地域に密着した中小規模のものまでさまざまです。依頼したい会社がある場合は、不動産仲介会社を訪問して査定を依頼しましょう。査定の依頼は基本的に無料です。
不動産の査定方法には「簡易査定」と「訪問査定」の2種類があります。それぞれの違いを知り、使い分けましょう。
簡易査定は「机上査定」とも呼ばれています。査定対象となる不動産を直で確認せず、様々なデータに基づいて机上で査定します。「おおよその価格を知りたい」「依頼する不動産仲介会社を決めるために比較したい」という場合に向いている査定方法だといえます。
訪問査定は「実査定」とも呼ばれている方法です。不動産仲介会社の担当者が実際に物件を確認して査定します。訪問査定は、日程の調整や準備など、手間と時間はかかりますが精度は高くなります。また、不動産仲介会社の対応を確認する機会としても活用できます。
一方、意中の不動産仲介会社がない場合、不動産一括査定サイトを利用する方法もあります。不動産一括査定サイトとは、一度の申し込みで複数の不動産仲介会社に査定を依頼できるインターネットサービスです。幅広い不動産仲介会社が登録しており、その中から査定をした不動産仲介会社から結果が届きます。
不動産一括査定サイトを利用すれば、手間をかけずに複数社に依頼することができます。
売却価格の相場をつかんだら、次は売却にかかる費用や税金額の目安について確認しましょう。これらはまとめて「諸費用」と呼ばれます。どのような項目があり、それぞれどれくらいかかるのか、見ていきましょう。
「仲介手数料」とは売却を依頼した不動産仲介会社に成功報酬として支払う手数料です。
売却を任せる不動産仲介会社は、物件の広告を出すなどして買主様を探します。この営業活動の対価として仲介手数料を支払います。手数料の額は不動産仲介会社が決めますが、上限が以下のとおりに設定されています。
不動産の取引価格 | 仲介手数料の上限 |
---|---|
200万円以下 | 取引価格×5%+消費税 |
200万円超400万円以下 | 取引価格×4%+2万円+消費税 |
400万円超 | 取引価格×3%+6万円+消費税 |
不動産の売却時には不動産売買契約書を交わします。その契約文書にかかる流通税として印紙税がかかります。売却金額に応じて定められた収入印紙を「不動産売買契約書」に貼ることで納めます。
家を買うとき住宅ローンを利用すると、返済が滞ったときの担保として抵当権が登記されます。住宅ローンを完済しても抵当権は自動的には抹消されないため、必ず抹消登記を行う必要があります。抵当権抹消登記には登録免許税として、不動産物件1件につき1,000円が発生します。抹消登記を司法書士に依頼する場合は、諸経費を合わせて2万円前後が目安です。
住宅ローンの残債を一括返済する場合、金融機関に対し全額繰り上げ返済手数料を支払います。インターネット、電話(テレビ電話)、窓口など、申し込み方法によって手数料は変わります。一部のネット銀行では全額繰り上げ返済手数料は無料です。
不動産を売却して出た利益(譲渡所得)には「譲渡所得税」「復興特別所得税」「住民税」の3つがかかります。
ただし、売買対象の不動産が居住用マイホーム(自己住居用不動産)で、適用要件を満たす場合には、3,000万円の特別控除の利用が可能となります。つまり、利益が3,000万円以下なら課税対象となりません。
譲渡所得税、復興特別所得税、住民税の税率は、不動産を所有している期間が5年超なら「長期譲渡所得」、5年以下なら「短期譲渡所得」の税率が適用されます。ただし、所有期間は売却した年の1月1日現在で判断されますので、注意が必要です。
長期譲渡所得の税率は20.315%です。「戸建ての売却価格-(前の家取得にかかった費用+売却にかかった費用)」で求めた譲渡所得にかけて求めます。
税率の内訳は、所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税が5%です。復興特別所得税は2037年までとなっています。
短期譲渡所得の税率は39.63%です。税率の内訳は、所得税30%、復興特別所得税0.63%、住民税が5%です。上記と同じく譲渡所得にかけて求めます。
引越し費用は家族の人数や間取り、作業人数、引越し先までの距離によって変わります。また、繁忙期(3、4月)であるか、平日であるかなどによっても変動します。必ず複数の業者に見積もりを依頼し、比較検討しましょう。
目安としては、家族4、5人で15万〜20万円あたりと見込んでおきましょう。繁忙期ならさらにかかる場合があります。
前述の費用に加え、戸建ての場合は以下に挙げる費用がかかるケースがあります。
築古の戸建ての場合、メンテナンスの状況などによっては例外もありますが、売却しようとしても建物の値段はほとんどつかないことがあります。また、解体を求められ、解体費用がかかることがあります。
戸建ての解体費用の相場は、その構造で変わってきます。
例えば、30坪の一軒家を解体する場合にかかる費用は、木造住宅でも100万円以上だと考えておきましょう。もちろん価格には地域差もあります。
土地を売却する際、買主様は土地の面積を正確に知りたいものです。面積は登記簿謄本を見れば確認できますし、登記簿の面積で売買契約を締結することも可能です。しかし、登記簿に記載されている面積は、実際の面積と異なるケースがあります。このため、買主様の多くは測量したうえでの正しい面積を出すことを求めます。
測量費は土地の広さや隣接している家の件数によって異なります。また隣地や接道が官有地の場合に行う官民査定があるかどうかでも変わります。一般的に100〜200㎡程度の土地で40万~50万円、官民立ち合いの必要な測量費用が70万~80万円と考えておきましょう。
家を解体すると、解体によって出た廃材など廃棄物の処理費用もかかります。金額としては10万〜50万円を見込んでおくといいでしょう。
売却時に老朽化した部分をリフォーム・ハウスクリーニングをしたほうが買主様にとって印象がよくなり、適正な価格で売却できることがあります。その費用は広さや修繕箇所によってさまざまです。工事によっては100万円くらいかかるリフォームもあります。ハウスクリーニングは5万〜20万円が相場です。
戸建てを売却するときに、必要となる書類があります。「いつもらったものか忘れてしまった」「紛失してしまった」というケースもあるかもしれません。取得方法を含め解説します。
登記簿謄本(登記事項証明書)は土地と建物で異なるため、1部ずつ取得する必要があります。最寄りの法務局の窓口か、郵送、オンラインで請求できます。
売買契約書は戸建て住宅を購入した際に不動産会社やハウスメーカーから交付されています。紛失した場合は、業者に契約書の写しを依頼しましょう。
重要事項説明書は、戸建て住宅を購入した不動産仲介会社から交付されています。紛失した場合は問い合わせて写しを依頼します。購入してから年数がたっている場合、保存されていないこともあります。ただ、この書類は必須ではありません。
登記済権利書または登記識別情報は、住宅購入時に発行してもらいます。紛失した場合、再発行することができないため「事前通知制度」もしくは「本人確認情報の提供」のいずれかの手段で家の所有者であることを証明する必要があります。
土地測量図・境界確認書は、土地の面積や隣家との境界線など、測量を行ったうえで判明した情報が記載されています。土地測量図がない場合は法務局の窓口やオンラインで請求できますが、測量が行われていない土地には最初から交付されていません。このケースでは、家の売却時に測量が必要となるケースもあります。
固定資産税納税通知書は、固定資産税の納税額が記載された書類で、毎年所定の時期に住んでいる市町村から郵送されてきます。紛失してしまった場合は再発行ができません。その場合、家の所有者や固定資産税の納税額が記載されたものが、かわりとなりますので、市町村に発行を依頼しましょう。
家の図面は住宅購入時に不動産会社やハウスメーカーから受け取っています。見当たらない場合は住宅を購入した不動産仲介会社やハウスメーカーに問い合わせてみましょう。
設備の仕様書も図面と同様、不動産会社やハウスメーカーから受け取っています。設備は特に、引き渡し後にトラブルを避けるために付帯設備書を作成する用途で必要となります。
建築確認済証または検査済証は適法に建築されたことを証明するための書類です。紛失した場合は、原則、再発行はできません。ただし、かわりとなる書類として「建築物台帳等記載事項証明書」(市区町村によって名称に違いがあることがあります)を発行してもらうことができます。
不動産仲介会社への査定依頼は必ず複数社に行いましょう。その過程で、不動産仲介会社の担当者の能力や相性、人柄を見て、納得した会社と媒介契約に進みます。相性がいい不動産仲介会社を選べば売却はスムーズに進み、適正な価格で売却できるものです。
では、どんな不動産仲介会社や担当者を選べばいいか、ポイントを解説します。
以下のような特徴が当てはまる不動産仲介会社の担当者であれば、スムーズな売却活動が期待できます。
担当者の説明が「丁寧でわかりやすい」と感じるかは重要です。不動産の専門家ではない売主様の理解に合わせて説明をしていることに加え、疑問や不安が解消するまで粘り強く説明している証拠だからです。さらに、コミュニケーションにおいてストレスを感じないのであれば、相性がいいということでもあります。
担当者に不動産のプロとして専門知識があり、販売実績が豊富かどうかも重要です。販売実績は、インターネットなどで調べる、もしくは直接担当者に聞いてみるといった方法で知ることができます。
専門性があり、相性がよくても、顧客に対して誠実さが欠けていれば、不安になるでしょう。売主様の不安に真剣に向き合わなければ、説得力も生まれません。それは、メールや電話での相談に対する反応の早さにも現れます。
不動産には戸建てのほかにも居住用のマンション、投資用マンション、オフィス、土地、アパートなどがあります。不動産仲介会社は、取り扱う物件の種類によって得手不得手があるものです。戸建ての売却を考えている売主様は、戸建ての取り扱いを得意としている会社を選びましょう。では、どこを確認すればいいかを解説します。
媒介契約を結ぶ不動産仲介会社を選ぶ際には、必ず仲介会社のサイトを閲覧しましょう。掲載しているキャッチコピーでどのような不動産の取り扱いが得意であるかを確認しましょう。「戸建ての取り扱いが得意であるとアピールしているか」「取り扱い実績として数字が掲載されているか」「数字はどのような内訳になっているか」などを見ると、戸建てに強いかどうか判断できます。
「戸建てが得意である」と確認したあとは、営業年数も確認してみましょう。営業年数の長さと実績は必ずしもイコールではありません。しかし営業年数の長さは、結果を出したからこそ実現できた、とも考えられます。
営業年数は免許番号から読み解くことができます。会社のウェブサイトか事務所に掲示している宅建業免許の番号を見ると、カッコで囲まれた数字があります。宅建業の免許更新は5年に1回(1996年以前が3年に1回)です。その数字が「2」なら5〜9年、「4」なら15〜19年ということが分かります。
地域にもよりますが、戸建ての売却はマンションと比べて長期になりがちです。日当たりや消臭、清掃など通常の内覧準備に加えて戸建てならではの内覧対応の注意点があります。
戸建ては木造が多く、鉄筋コンクリートや鉄骨鉄筋コンクリートで造られているマンションよりもシロアリや雨漏りなどの不具合があるのではないかと不安を抱えている買主様も少なくありません。不具合がある場合はしっかり説明し、売却前にリフォームの意向があれば伝えましょう。住宅診断(ホームインスペクション)を受けると、見えない部分まで家の「健康状態」が分かるため、買主様に共有すると好印象につながるかもしれません。
戸建てでは、ゴミ出しルールなど近隣の状況が気になる購入検討者様も多い。どんな地域性があるのか、周辺の環境がどうなのか、内覧に訪れた購入検討者様に説明するといいでしょう。不安を持っている方もいるので、積極的に教えてあげましょう。
戸建ての購入検討者の中には、庭や駐車場を活用して暮らしを豊かにしたい方もいます。内覧前には雑草や植栽の手入れをしておきましょう。
居住中の戸建て住宅を売却につなげるまでの準備と流れについて解説してきました。このあと売買契約を交わして引渡し、引越しが終わった後に確定申告をして売却活動は終了となります。売却前・売却後の手続きは多岐にわたるので、信頼できる不動産のプロに任せることが重要です。すまいValueでは、戸建ての売却にも強い大手6社による査定を一括で依頼することができます。大手不動産仲介会社ならではの売却力と安心感で不動産売却を進めることをおすすめします。
公認 不動産コンサルティングマスター・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
株式会社 髙野不動産コンサルティング 代表取締役、株式会社 アーキバンク 取締役。不動産会社にて600件以上の仲介、6,000戸の収益物件管理を経験した後、不動産ファンドのAM事業部マネージャーとして従事。現在は不動産コンサルティング会社を立ち上げ、投資家や事業法人に対して不動産コンサルティングを行いながら、建築・不動産の専門家で形成される株式会社アーキバンクの取締役として、業界において革新的なサービスを開発・提供している。
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ご回答ありがとうございました。