住宅ローンで家を購入した場合、その家には金融機関が設定した「抵当権」と呼ばれるものが付いています。抵当権は、金融機関が住宅ローンの担保として設定している権利です。住宅ローンの支払いが滞りなく完了すれば、抵当権を抹消できる書類が金融機関から発行されますので、それを持って法務局で抵当権を抹消することが可能です。万が一、住宅ローンが支払えなくなった場合、最終的に金融機関は抵当権を設定している家を競売(けいばい)にかけて資金の回収を進めます。抵当権の実行と呼ばれます。ではこの抵当権が残っている=住宅ローンの残債がある状態で家を売却したい場合、どのようにしたらよいでしょうか。
結論から言えば、住宅ローンの残債があっても、その住宅ローンをいったん完済してしまえば、家は売却できます。住宅ローンが残った状態で家を売りたい場合、具体的な手法としては、以下の2パターンがあります。
・不動産仲介会社に依頼して売却する方法
・任意売却する方法
不動産仲介会社に依頼して売却する場合、家を売却した直後に得たお金をそのまま住宅ローンの返済に充て、不足分は再度別の住宅ローンを組むなどして現金を調達して補填します。実際には、家を売却するときの登記費用や仲介手数料など諸費用がかかるため、プラス成約価格の4〜5%程度の出費は見込んでおかなくてはなりません。
一方で任意売却は、債権者である金融機関の許可を得たうえで、住宅ローンが残ったまま通常の市場で家を売り、残った分の住宅ローンは分割で支払い続けるという方法です。任意売却の場合は住宅ローンが残ったままとなりますが、完済するための現金をすぐに用意する必要がなくなり、売れずに困っている家でも売却が可能になります。
任意売却には、金融機関の許可が必要です。基本的に住宅ローンを貸し出している金融機関は、住宅ローンの残債をできるかぎり完済してもらいたいと考えています。しかし借り入れしている人が何らかの理由で支払いが滞り、抵当を入れている不動産を競売にかけるとなると、家は市場価格よりもかなり安い価格でしか売却できず、資金回収が困難になります。
そこで、回収不能となってしまうよりは市場価格で売却して支払える分は回収し、残りの分は無理のない範囲で少しずつでも返済される「任意売却」という譲歩案が出てくるのです。金融機関としても貸出金が不良債権となるよりは、少しでも回収できる方が得になる可能性が高いと考え、任意売却に同意してくれるケースがあります。
一見すると任意売却はよい方法に思えるかもしれません。しかし金融機関が任意売却を認めるのは、住宅ローンの残債が家の成約価格よりもかなり多かったり、借り入れしている人が病気などやむをえない理由で現状の支払いを続けていくことが困難であったりするなど、非常に稀な状況であるといえます。
任意売却を金融機関に認めてもらうには、ある程度の期間住宅ローンを延滞していることも事実として提示する必要があります。延滞の記録は信用情報機関に残るため、「その他の住宅ローンが組めなくなる」「クレジットカードが新たに作れなくなる」などのデメリットも避けられません。そこまでして任意売却にするかどうかは、慎重に考えたいところです。
このような理由から任意売却を選ぶことは現実的に非常に難しく、可能なかぎり不動産仲介会社に依頼して売却することを考えることをおすすめします。
ここまでご紹介した不動産仲介会社に依頼して売却する方法と任意売却以外にも、住み替え(買い替え)ローンという方法で「現在残っている残債を、新しく契約する不動産ローンに上乗せをする」という方法もあります。この場合、現在残っている残債プラス、売却時にかかる諸費用も借り入れる必要が出てきます。そのため、住宅ローンの残債が膨らむことを覚悟しなくてはなりません。
住宅ローンが増えてしまうと、毎月の負担もそれだけ大きくなります。毎月の返済シミュレーションをしっかりとおこない、無理なく支払い続けるかどうかを十分検討することが必要です。また、あくまでも住み替えローンなので、自宅の住み替えでなければこの住宅ローンは利用できない点も注意してください。
借入額が増えることを考えると、住み替えローンではなく不動産仲介会社に依頼して売却するベストな方法です。ただし、自宅の住み替えなら、しっかりと返済額をシミュレーションして問題がないことを確認できれば、住み替え(買い替え)ローンを利用するという手もあります。将来にわたって返済を続けていけるかどうか、この機会にじっくりと考えましょう。
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小林弘司
不動産コンサルタント/不動産投資アドバイザー
東京生まれ、東京育ち。海外取引メインの商社マン、外資系マーケティング、ライセンス会社などを経て、現在は東京都内にビル、マンション、アパート、コインパーキングなど複数保有する不動産ビジネスのオーナー経営者(創業者)です。ネイティヴによる英語スクールの共同経営者、地元の区の「ビジネス相談員」、企業顧問なども行っています。
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