住宅ローン返済が困難になったとき、自宅はどうなるのでしょうか。ローン融資の際に説明を受けたかもしれませんが、自宅には金融機関による抵当権が設定されているため、支払いが滞り続けると自宅は差し押さえられて競売にかけられ、退去を余儀なくされます。これを食い止め、よりダメージを少なくして自宅を売却する方法はないのでしょうか。
リストラ、病気、離婚・・・・・・。最近ではコロナ禍による収入減少など、住宅の購入時には想定できなかった理由で毎月の住宅ローン返済に困り、滞納に及んでしまうことがあります。
また、従来の返済額では生活に影響が出るなら、返済計画の見直しを相談することもできます。しかし、滞納が連続して3~6ヶ月に及び、なんの対応もしないままですと、住宅ローンを融資した金融機関は「競売」という手続きに入ります。
ただ、競売になった場合、情報が公開されるだけでなく、資金を受け取ることもできずに強制的に自宅から退去させられることが多いため、精神的にも社会的にもダメージを受けます。
しかし、競売の手続きに入る前に、金融機関に相談することで「任意売却」という手続きに変えることができます。任意売却だと、通常に近い形態での売却が可能になりますし、場合によってはそのまま住み続けることもできます。
通常、自宅を売る際は自分の判断だけで売却ができます。このとき、売却金額がローン残債を上回れば問題はありませんし、下回れば自己資金を追加して残債の清算にあてることになります。
一方、任意売却ではローン融資先の金融機関と話し合いをしたうえ、売却には同意が必要になります。売却価格がローン残債を下回り、残債を一括で清算できない状況では、抵当権は外せません。残債の未払い状態で抵当権を外し、残債を分割で支払っていくため、金融機関の同意が必要となります。
任意売却は競売よりも多くの回収が期待できるため、金融機関は任意売却を認めるのです。
ローンを融資した金融機関には、融資金の返済が滞ったとき、物件を強制的に差し押さえて競売にかけ、融資金を回収することができる権利があります。これを抵当権といいます。
通常、滞納3~6ヶ月でローンを分割で返済できなくなり、その後、1~3ヶ月で窓口が金融機関から保証会社に変わります。この後、裁判所から「競売開始決定通知」が届きます。1~2週間で裁判所の執行官により自宅の調査が行われます。5ヶ月以内に裁判所から「期間入札」の通知が届くと自宅の競売が公告され、約1ヶ月半以内に期間入札がスタートします。
ここまでの期間なら任意売却に切り替えることができますが(金融機関の判断による)、その後はもう競売手続きを止めることはできません。落札者に所有権が移ると、自宅から強制退去となります。
上記のように強制退去となる競売は避けられるものなら避けて、任意売却に切り替えたいものです。では、任意売却を検討すべき人はどんな方で、検討すべきタイミングはいつなのか、解説します。
任意売却を検討するべき人でありがちなのが、勤務先の業績悪化によるリストラやボーナスカットなどで収入が激減してしまい、毎月のローン支払いが追いつかなくなるケースです。このほか、病気になって以前のように働けなくなってしまった、ペアローンを組んでいた夫婦が離婚してしまい、支払いが一方だけになってしまったなどのケースがあります。
このほか、住民税や固定資産税などを滞納して役所から自宅を差し押さえられてしまったというケースも該当します。このような状況に陥ったら、できるだけ早く融資先の金融機関に相談し、安定してローン支払いを続けられそうにないならすぐに任意売却の検討に移るべきでしょう。
また、自宅の地価や資産価値が下落して、売却金額がローンの残債を下回ってしまい、差額分を現金一括で支払うことができない人も任意売却を検討すべき方に当てはまります。
通常、住宅ローンの残額を清算できない場合は抵当権を外すことはできないのですが、競売にかけると通常の売却よりも回収できる金額は相場の2~3割低くなってしまう場合もあるため、金融機関としても競売は避けたいと考えています。任意売却になると、売却価格は金融機関が決め、残債の支払い方法は話し合いによって、分割払いとなります。
前述のように、滞納を放置していると金融機関や裁判所から通知が来ます。ローン支払いの督促状が来ている段階ならまだ軌道修正が可能ですが、滞納が3~6ヶ月を過ぎた後に金融機関から保証会社に支払い先が変わったことを知らせる「代位弁済通知書」や裁判所からの「競売開始決定通知」が届く頃には、もう任意売却か競売しか選択肢は残されていません。
その後、裁判所から「期間入札」通知が届き、入札が開始されます。開札前なら任意売却への移行は可能な場合があります。
任意売却は競売と比べてどんなメリットがあるでしょうか。主なものを解説します。
競売の場合、裁判所の職員が自宅を調査し、物件に関する情報が専用サイトで公開されます。所有者の名前は伏せられますが、おおまかな住所や居室の面積、内観写真などはネットで誰でも見られます。このため、入札金額も市場価格の7~8割前後と低くなってしまいます。
一方、任意売却の場合は、通常の不動産取引と同様に、不動産仲介会社を通じて売却情報が発信されます。任意売却物件であることは公開されません。このため、よい条件を示してくれた買主様を選ぶことができ、競売よりも市場価格に近い価格で売却できます。
ただ、前述のとおり、任意売却の場合は通常の売却と異なり、売却価格は売主様が自由に設定することはできません。住宅ローンの債権者である金融機関がより高く、より早く売れそうな価格を定めます。早さが優先された場合、売主様の希望とは反して売却価格が安くなる可能性があることは押さえておきましょう。
住まいを通常の方法で売却するとき、不動産仲介会社に支払う仲介手数料や登記費用、固定資産税の支払い、引越し費用などもろもろ含めると、売却価格の4~5%程度の諸費用がかかるとされます。3,000万円のマンションの場合、120万~150万円程度となります。
しかし、任意売却を検討している方にとって、数百万円におよぶまとまった現金を一括で準備することは難しいのではないでしょうか。任意売却の場合は、債権者である金融機関に支払う売却代金の中から、この諸費用が必要経費として認めてもらえます。引越しまでが完了しないと売却が成立しないという考え方から、金融機関の多くが自宅の売却金額から引越し代(生活準備金)を差し引くことを認めているのです。
このため、引越し費用や未払いの固定資産税を支払う現金が不足していても、任意売却をすることは可能です。
任意売却といえば、退去が前提のケースが大半ですが、中には「子供に転校させたくない」「両親が高齢で引越しは負担」「住み慣れたわが家を離れたくない」などの理由で住み続けることを希望する方もいるかもしれません。そういった方にとって朗報なのが、任意売却は売却先によっては住み続けることもできるということです。
任意売却では売却先を選んで交渉することができます。近親者に購入依頼をして交渉すれば、家賃を支払うことで住み続けることができるかもしれません。
また、「リースバック」といって、自宅を不動産投資会社に一括で購入してもらうと同時に賃貸契約を結ぶことで、そのまま住み続けることができます。
一方、任意売却は競売と比べてどんなデメリットがあるでしょうか。主なものを解説します。
任意売却では、市場価格に比べて1~2割ほど低い価格で売りに出されるデメリットがあります。価格は不動産仲介会社と相談しながら売主が決められますが、速やかに売却するために、ほとんどの場合で市場価格より低く売り出されます。
その理由の一つは、任意売却には期限があるためです。任意売却が可能な期間は長くても1年程度で、期限を過ぎると競売の手続きが始まるため、競売を避けるために売却価格の値下げに応じざるを得ません。
二つ目は、リフォームやハウスクリーニングで価値を高めることが費用面で難しく、現状のまま売却せざるを得ないためです。
三つ目は、売り手の契約不適合責任が免責になることが一般的であり、購入後に欠陥が見つかると買い手にとって不利になるためです。通常の売却では、住宅売却後に見つかった欠陥は売主様が責任を負う契約不適合責任が課せられますが、任意売却では売主様の契約不適合責任を問うことができないので、売却価格は市場価格より安くなります。
任意売却は債権者の金融機関に加えて、連帯債務者・連帯保証人の同意がなければ売却できません。決済に同行して、抵当権を抹消するための書類への署名、押印が必要です。また、住宅ローンの残債の支払いには、連帯保証人にも支払い義務が生じるので、連帯保証人に今後の支払いについて説明が必要になります。
連帯債務者と連帯保証人には、任意売却は競売にかけられるより状況がよくなることを誠意をもって説明して、承諾をもらうよう努めることが重要です。
任意売却の期間は、通常、開始から最大で1年程度で、期限までに買い手が見つからない場合や金融機関が売却が見込めないと判断すると、強制的に差し押さえて競売にかけられます。
競売では価格は市場価格の6~7割になってしまう上、住宅ローンの支払いを滞納すると支払わなければならない遅延損害金が大きくなり、借入金がさらに膨らみます。
また、競売になると、自宅からの強制退去となってしまい、住めなくなってしまうので注意が必要です。
次に、住宅ローンを滞納して任意売却をスタートするまでの大まかな流れを以下に説明します。
任意売却にする場合、任意売却に詳しく取引経験のある不動産仲介会社に相談することが重要です。任意売却は、通常の不動産売却に比べ時間が限られているうえ、任意売却を前提に売却プランを立てる必要があります。
このため、任意売却に豊富な実績のある不動産仲介会社に依頼する必要があります。任意売却に十分な知識のある専門家のいる不動産仲介会社であれば安心できます。できれば任意売却専門の不動産仲介会社か任意売却部門のある不動産仲介会社に相談することをおすすめします。
最初に督促状が来た時点で、家を売らなければローンが返済できないと判断できれば、住宅ローン残高を確認し、不動産仲介会社へ物件査定を依頼して、売却によるローンの一括返済が可能かどうかを確認する必要があります。
ローン残高の確認は、金融機関から毎年10~11月頃に郵送される残高証明書、あるいは金融機関からローン契約をして最初に郵送されてくる返済予定表で分かります。
物件の査定は不動産仲介会社に依頼すると、訪問をして物件を評価してくれます。これを訪問査定といいますが、現地確認やヒアリングは1~2時間程度で済みます。調査に当たっては、登記事項証明書(登記簿謄本)や建物の図面、購入時の各種書類などを準備する必要があります。査定結果は、1週間程度で知らされます。
住宅ローン残高の状況や査定結果などをふまえ、不動産仲介会社と売却プランを策定します。売却プランでは、売却にかかる費用や税金などを不動産仲介会社に計算してもらい、査定額をもとに売り出し価格をきめます。
また、売却価格でローン残債を返済できるかどうかを検討し、預貯金などを加えても返済しきれない場合は、残りの分割返済の返済方法を協議して、金融機関の同意をもらうことになります。
住宅ローンが完済されていない場合、本来売却を完了できず、抵当権の抹消ができません。しかし、任意売却の場合は、ローンを完済できなくても、債権者である金融機関の同意が得られれば任意売却ができます。このため、金融機関には早めに相談し、売却プランを説明して任意売却への同意をもらうことがポイントになります。
金融機関は、住宅ローンが完済されない状況で抵当権を外さなければならないので、任意売却への同意には慎重になります。住宅ローンの残債を回収するために、売出価格をできるだけ高くするように求めてくる場合があります。逆に、売却を急ぐ必要がある場合は、市場価格より安くするよう求めてくる場合もあります。
売主様としては、売却プランの価格の妥当性を説明するとともに、ローンを返済しきれない場合の分割払いなどを相談し、承諾を得るよう努める必要があります。
先述したとおり、任意売却では金融機関だけではなく連帯債務者や連帯保証人の同意も必要です。債務者がローンを支払えない場合、連帯債務者や連帯保証人に請求が行くことになるので、滞納になっている事情を説明して、競売を避けるためには任意売却が有効な方法であることなど誠意をもって説明し、同意を得ることが大事です。もし同意が得られない場合、任意売却ができなくなるので、同意を得ることは必須です。
金融機関と連帯債務者・連帯保証人に任意売却の同意を得ると、不動産仲介会社と媒介契約を結び、売却活動の開始になります。売却活動の期間は金融機関に同意された期間になりますが、通常は競売開札日の前日が期限になります。
売却活動が開始されると、内覧への対応が必要になります。スムーズに売却をするには、内覧での印象が大事です。部屋が雑然としていると印象が悪くなるので、片付け、清掃を心がけましょう。
なかなか買い手が見つからない場合、値下げが必要になります。価格変更には金融機関の了承が必要です。また、買主様が見つかった場合も、売買契約の締結の前に売却条件などについて金融機関の合意が必要になるので、注意しましょう。
任意売却は競売を回避するためにもできるだけ早く検討すべき手段ですが、以下の3つの注意点があります。
前述のとおり、住宅ローンを滞納し、何の対応を取らないままでいると、自動的に競売手続きに入ります。以前のように住宅ローンを支払っていける状況に戻れるという確信がない場合はすぐに任意売却の手続きに入りましょう。やると決めたら、早ければ早いほうがデメリットを減らすことができます。
住まいの場合、土地の価格はその時点の国内の経済状況などによって変動がありますが、建物部分に関しては年数がたつほど価値が下落していきます。このため、資産価値の下落が進まないうちに早く売却活動を始めた方が賢明です。また、任意売却をすると決めるまでの期間によっては、競売が実行されるまで時間が残されていないことがあります。思い立ったらすぐ行動に移しましょう。
任意売却を行う際には、物件を仲介する不動産会社選びも重要です。任意売却物件での実績の多い不動産仲介会社を選びましょう。任意売却は通常の不動産取引よりも、法律の知識や経験が問われることが多くなるからです。
売却価格の設定は金融機関が行いますが、不動産仲介会社の売り方によっては売却期間が長くなることがあります。そうなると、内覧対応などに時間を取られることになるので、可能なかぎり早く売ることができる不動産仲介会社を選ぶことが求められます。
マンション住まいの方で住宅ローンの支払いを滞納してしまった方の多くが、毎月、マンションの管理組合に支払わなければならない管理費と修繕積立金も滞納しているという実態があるようです。管理費と修繕積立金に滞納があると、任意売却で自宅を購入してくれた方に債務が継承されてしまいます。このため、売却代金で必ず清算する必要があることを忘れないでおきましょう。
住宅ローンを滞納すると、金融機関から督促状が届きます。放置すると、競売にかけられることになるので、ローンの支払いができない場合は、早めに金融機関に相談して、任意売却を進める必要があります。
任意売却は通常の不動産取引よりも法律の知識や経験が問われることになるので、任意売却の経験が豊富で信頼できる不動産仲介会社への依頼が何よりも重要です。すまいValueは日本を代表する大手不動産会社6社によって運営されており、その点では申し分ありません。任意売却を検討している人は、ぜひすまいValueをご活用ください。
公認 不動産コンサルティングマスター・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
株式会社 髙野不動産コンサルティング 代表取締役、株式会社 アーキバンク 取締役。不動産会社にて600件以上の仲介、6,000戸の収益物件管理を経験した後、不動産ファンドのAM事業部マネージャーとして従事。現在は不動産コンサルティング会社を立ち上げ、投資家や事業法人に対して不動産コンサルティングを行いながら、建築・不動産の専門家で形成される株式会社アーキバンクの取締役として、業界において革新的なサービスを開発・提供している。
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