空き家の活用方法に困っていませんか。空き家を使用せず放置していると、維持管理の負担がかかるだけでなく、「特定空家」や「管理不全空家」に指定され、固定資産税や都市計画税が減免される「住宅用地の課税標準の特例」が受けられなくなってしまう可能性があります。使用予定のない住宅を所持している、または相続の予定があるという方は、空き家の活用方法を知って賢く運用できるよう計画しましょう。ここでは、空き家の定義や代表的な活用方法、売却・相続におけるポイントを解説します。
現在使用されていない家は、一定の条件を満たしていれば「空き家」と判断されます。所有する物件がどのように扱われるのか知るためにも、まずは空き家の定義や自治体の判断基準について見ていきましょう。
空き家とは、一定期間以上居住がないまま、使われていない家をいいます。国土交通省が定める空き家に関する法律(空家等対策の推進に関する特別措置法)では、空き家は以下のように定義されています。
“第二条 この法律において「空家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。“
引用元:空家等対策の推進に関する特別措置法
空き家に関する国の調査では、住宅の性質や用途に応じて、空き家を以下の4つの種類に分類しています。
賃貸用住宅:
賃貸のために所持しているが、借り手が見つかっていない住宅
売却予定の住宅:
売却の予定があるが、買い手が見つかっていない住宅
二次的住宅:
別荘としてや一時的な仕事の寝泊まりなどで特定の期間にのみ利用し、その他の期間は居住の実態がない住宅
その他の住宅:
上記に該当せず、転勤や入院などで長期にわたり居住の実態がない住宅(※詳細は次章「特定空家」にて解説)
賃貸用住宅、売却予定の住宅、二次的住宅は、所有者による適切な管理が施されやすい空き家であるのに対し、その他の住宅に分類される空き家は、管理が行き届いていないケースもあります。管理が行き届いていない空き家は、居住や売却が難しい、老朽化が進行しやすいといった特徴があり、近年問題視されています。
管理の行き届いていない住宅を空き家と認定するため、各自治体は空き家所有者に対して、「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づく調査や対策を実施することが認められています。しかし、「その他の住宅」に分類される空き家でも、所有者が定期的に現地を訪れて掃除をしている、修繕や補強など物件の維持・管理に努めているといった場合もあるでしょう。この場合は、前述の空き家の定義に当てはまらないため、空き家と認定されることはありません。
空き家の調査における判断基準は一定の指針が示されており、主に以下のようなポイントが重視されます。
例えば、国土交通省が示している管理指針によると、空き家の「あるべき管理」の姿について、以下のような指針が例示されています。
前章で挙げた「その他の住宅」の中でも、地域社会に影響があるとして問題とされているのが「特定空家」と「管理不全空家」です。日本の空き家の件数や空き家対策に関する法律の概要、特定空家の特徴について詳しく見ていきましょう。
総務省が実施した「令和5年住宅・土地統計調査」によると、2023年10月1日現在における総住宅数は6,504万7千戸です。このうち、空き家の数は900万2千戸で、前回調査の2018年から51万3千戸増加して過去最多になりました。また、総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.8%となり、前回調査から0.2ポイント上昇して、こちらも過去最高を更新しています。それに伴い、適切に管理されることなく放置された空き家も増加しており、「空き家問題」は国内で広がりを見せています。
〈日本の空き家の件数と総住宅数に占める割合〉
総住宅数 6,504万7千戸 |
居住世帯あり 5,566万5千戸 |
|
居住世帯なし 938万2千戸 |
空き家 900万2千戸(総住宅数の13.8%) |
参照元:令和5年住宅・土地統計調査
空き家が増え続けると倒壊の危険や景観を損なう可能性など、地域住民の生活環境に影響が出てしまうことが懸念されるため、2015年5月、「空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、空家対策特別措置法)」が全面施行されました。
これにより、国では空き家所有者の個人情報の利用や税制面などで法的根拠をもった以下のような対策措置を行うことが可能となりました。
また、2023年12月13日には「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」が施行され、管理されていない空き家への対応が一層強化されました。市区町村による権限も強化され、空き家を適切に管理できない場合、空き家所有者に以下のペナルティが科せられることがあります。
特定空家とは、空家対策特別措置法により、「放置することが不適切」と定められた空き家のことです。
以下のいずれかの条件に当てはまる空き家は、同法により特定空家に指定されます。
1.倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
内容 | 一例 |
---|---|
建築物が倒壊等するおそれがある | 基礎の不同沈下 柱の傾斜 基礎の破損、変形 土台の腐朽、破損 |
屋根、外壁等が脱落、飛散等するおそれがある | 屋根の変形 ふき材の剥落 壁体を貫通する穴 看板や給湯設備等の転倒 屋根階段やバルコニーの腐食、破損、脱落 |
擁壁が老朽化し危険となるおそれがある等の状態 | 擁壁表面に水がしみ出て流出している |
2.著しく衛生上有害となるおそれのある状態
内容 | 一例 |
---|---|
建築物や設備の破損等が原因の状況 | 吹付け石綿等が飛散し暴露する可能性が高い状況 浄化槽の放置、破損等による汚物や臭気が地域住民の日常生活に支障を及ぼしている等の状況 |
ごみ等の放置、不法投棄が原因の状況 | 臭気の発生により、地域住民の日常生活に支障を及ぼしている状況 多数のねずみ、はえ、蚊等の発生により、地域住民の日常生活に支障を及ぼしている状況 |
3.適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
内容 | 一例 |
---|---|
既存の景観ルールに著しく適合していない状態 | 景観法に基づく景観計画が策定されている場合、当該景観計画に定められた建築物や工作物の形態意匠等の制限に著しく適合していない状態 地域が定める景観保全ルールに著しく適合しない状態 |
周囲の景観と著しく不調和な状態 | 屋根、外壁等が外見上大きく傷んでいる、または汚れたまま放置されている状態 多数の窓ガラスが割れたまま放置されている状態 立木等が建築物の全面を覆うほど繁茂している状態 |
4.その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
内容 | 一例 |
---|---|
立木が原因となる状態 | 立木の枝等が近隣の道路等にはみ出し、歩行者等の通行を妨げている状態 立木の腐朽、倒壊、枝折れ等が生じ、近隣の道路や家屋の敷地等に枝等が大量に散らばっているなどの状態 |
動物等が原因となる状態 | 動物のふん尿や汚物の放置による臭気が地域住民の日常生活に支障を及ぼしている状態 動物の鳴き声やその他の音が地域住民の日常生活に支障を及ぼしている状態 シロアリの大量発生により地域住民の日常生活に支障を及ぼしている状態 |
建築物等の不適切な管理が原因となる状態 | 門扉の無施錠や窓ガラスの割れなどにより、不特定の者が容易に侵入できる状態 |
また、同法の一部を改正する法律の施行に合わせ、「管理不全空家」という区分が新設されました。これにより、特定空家になる可能性のある空き家は管理不全空家に指定され、特定空家と同様に適正な管理を促されるとともに、住宅用地特例の適用対象から除外されてしまいます。
所有している住宅が特定空家・管理不全空家に指定されてしまった場合、その要因となる不適切な箇所を改善することで、特定空家・管理不全空家の解除が可能です。指定を解除できると、敷地の固定資産税についての軽減措置を受けられるなど、上で挙げた空き家の管理不足によるペナルティを回避できます。
空き家を放置すると、住宅や設備の老朽化が進んで不動産としての資産価値が下がり、賃貸や売却のタイミングを失ってしまいます。
また、十分な管理をせずに放置して、特定空家・管理不全空家に指定されてしまうと、税負担が増えるばかりか近隣とのトラブルに発展する可能性もあります。放火や不法投棄など事件性のあるトラブルに巻き込まれるリスクもあり、場合によっては所有者責任を逃れることはできません。従って空き家を放置しても得られるメリットはなく、逆にデメリットが目立つばかりとなっています。
上述の空家対策特別措置法の施行により、今後は空き家の放置に対して厳しい措置が取られていくことが予想されます。空き家所有者は住宅の売却や賃貸などを検討し、賢く活用できる方法を考えていくことが大切です。
また、状況を改善したいものの、実施するべき対処法がわからない方や、事情により空き家の十分な管理ができない場合には、市区町村の空き家にまつわる相談窓口の利用や、NPO法人などのアドバイスによる解決を検討しましょう。
居住予定のない空き家を活用できると、家賃収入に伴う収入の安定化や、駐車場や民泊などに転用して売り上げをあげるなど多くのメリットがあります。
空き家の状態や形態に合わせた、代表的な活用方法をご紹介します。
築年数が古く、建て替えないと利用できないような空き家や、広い土地付きの空き家におすすめの活用方法です。更地にすることでコインパーキングなどでの土地利用の幅が広がりますし、土地に十分な広さがあれば共同住宅も建築できます。
空き家の解体費用は地域や立地条件によっても異なりますが、木造住宅で1坪あたり3~5万円程度、鉄筋コンクリート造で1坪あたり6~8万円が相場です。
汚水処理のための浄化槽を設置している空き家の場合、撤去にかかる費用は浄化槽1基あたり7万円~15万円が相場です。住宅や土地の状況によっては解体費用がかさみますが、空き家の解体や浄化槽の撤去には助成金などを受けられる場合もありますので、市区町村の相談窓口などで確認してみましょう。
築年数が浅く、立地が良い空き家におすすめの活用方法です。
空き家に設備の故障や不備、劣化が見られる場合には、屋内外のクリーニングやリフォームを施して賃貸物件として活用できます。状態が良ければ、借り手を見つけやすくなるでしょう。
空き家を賃貸物件として活用できれば、毎月の家賃収入を固定資産税や修繕費に充てられます。放置しているままの空き家は劣化が早いですが、入居者がいることで劣化はゆるやかになるため、維持にかかる費用負担も減らせます。
シェアハウスは一軒を複数人でシェアする居住形態のため、面積における入居世帯がアパートよりも多く、通常よりも高い家賃収入が期待できます。人気があるエリアはシェアハウスの需要も絶えないため、立地に応じてシェアハウスとしての活用を検討してみましょう。
ただし、空き家をそのままシェアハウスに転用することは難しいため、リノベーションが必要になることがあります。また、家具や家電を用意するといった初期投資も必要です。
民泊は所有する空き家を宿泊施設として提供し、その対価を得るビジネスです。
外国人旅行者からの人気が高く、都市や観光地周辺はとくに高い需要が見込めます。
また、民泊の運営業務は管理会社に委託できます。所有者の負担を減らすことができますので、十分な集客が見込める場合はメリットが大きいでしょう。
空き家が自宅から近い場合、トランクルームとして大きな荷物やアウトドアグッズを置いたり、将来的に自分や親族が住んだりすることも可能です。
空き家を自分で管理する場合は、以下のようなメンテナンスを定期的に行う必要があります。
空き家を適切に管理し、建物の劣化を遅らせることができると、資産価値の維持につながるだけでなく、特定空家・管理不全空家に指定されることもありません。
ただし、自分で管理する空き家は無人になっている時間が多く、防犯面のリスク(不審者の出入りなど)を考慮する必要があります。また、賃貸やシェアハウスのような初期投資はかかりませんが、土地・建物の維持には税金やメンテナンス費用などのコストが発生し、大きな負担になる可能性があります。使う予定がなければ、早めに売却するのも一案です。
空き家にかかる税金や諸経費には、以下のようなものがあります。
〈空き家にかかる税金・諸経費〉
活用予定のない空き家を売却する場合、「解体して売却」もしくは「そのままの状態で売却」することが可能です。
それぞれにどのようなメリット・デメリットがあるのか見ていきましょう。
古い空き家で修繕やリノベーションに大きい費用がかかる場合などには、先に空き家を解体し、更地にしてから売却する方法があります。
建物を解体して更地にすると、土地の取得後すぐに建物を建築できるなど、買主にとって物件(土地)としての価値が高まります。そのため、古家付き土地に比べると早く売却しやすいといったメリットがあります。
また、売却までの期間に空き家を管理する必要がなくなるため、定期的なメンテナンスにかかる時間や費用を省ける点もメリットといえます。
建物を解体して更地にする場合、建物の解体にかかる手間や費用を売主が負担する必要があります。
また、更地になると住宅用地でなくなるため、翌年から固定資産税の減免を受けられなくなります。
空き家を解体せず、空き家と一緒に土地を売り出す方法です。
空き家をそのままの状態で売却する方法は、「中古戸建」または「古家付き土地」での売却と呼ばれます。購入者が決まってから解体する「解体渡し」や、解体費用を買主に負担してもらう方法なども選択できます。これらの売却方法は、売却にかかる手間や費用の負担を最小限に抑えられる点がメリットといえるでしょう。
建物付きの土地は購入後に解体が必要になるため、引き渡しまでの期間が長くなりやすく、すぐに家を建てたいと考えている買主から敬遠されてしまいます。
また、売却が済むまで空き家を管理しなければならず、建物の固定資産税も負担しなければならないことがデメリットです。
相続などにより空き家を所有する際は、ここまで解説してきた空き家の活用方法を視野に入れ、計画的な管理・手続きを進めていきましょう。
空き家が自宅から遠い場合や、空き家を管理するだけの経済的余裕がないといった場合は、必ずしも空き家を相続する必要はありません。相続する権利をすべて放棄する「相続放棄」も視野に入れておくといいでしょう。
親族から空き家を相続した場合、遠方に住んでいると管理が十分に行えず、放置されてしまいます。家は適切なメンテナンスを行わないと、劣化が急速に進行するもの。資産価値が低下した空き家は売却や賃貸が難しく、所有することが大きな負担になります。思い入れのある家でも「適切に管理できるか」「活用方法があるか」といった視点から、どうするか決めることが大切です。
空き家の管理が難しい、活用方法が見当たらないといった場合、被相続人の死亡を知った日(相続人になったことを知った日)から3ヶ月以内であれば、相続放棄を選ぶことができます。
ただし、相続放棄はマイナスとなる空き家だけを放棄できるものではありません。
相続放棄をすると預貯金や現金、有価証券などプラスとなる財産を含めた「すべての財産を同時に放棄する」必要があるため、慎重な判断が求められます。
空き家の相続から処分までには、一般的に次のような手続きがあります。
空き家を相続してから処分するまでの手続きには、時間や労力がかかります。
相続した空き家を処分する流れについてより詳しい解説は、こちらを参考にしてください。
空き家を放置して管理が不十分になると「特定空家・管理不全空家」に指定される可能性があります。
特定空家・管理不全空家は維持・管理の負担が大きく、多くの費用が必要になるケースがほとんどです。
使用予定のない空き家を所有している方や、これから空き家を相続する予定があるという方は、今回の内容を参考に有効な活用方法を考えてみましょう。また、売却を検討している方は、不動産仲介会社へ相談すると空き家の状態を考慮した適切なアドバイスを受けられます。その際にはぜひ、すまいValueをご利用ください。
斎藤 勇
ファイナンシャルプランナー/宅地建物取引士
保険や貯蓄、住宅ローンなど、お金にまつわる疑問や悩みごとの相談に応じている。不動産取引では不動産投資を通じて得た豊富な取引経験をもとに、売り手と買い手、貸し手と借り手、それぞれの立場でアドバイスを実施。趣味はマリンスポーツ。モットーは「常に感謝の気持ちを忘れずに」。
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