急な転勤、想定外の離婚、通勤の便利な住宅への買い替え、予定外の資金の必要性など、さまざまな事情から住宅ローンが残っている家を売りたいとお考えの方がいるでしょう。そんな方の中には、住宅ローンを完済していない家を売却できるのだろうかと心配されている方もいるかもしれません。そこで、この記事では、住宅ローンを完済する前に家を売る方法について解説するとともに、注意点についても説明します。
住宅ローンが残っている家を売却するには、住宅ローンの残り(残債)を預貯金など自己資金で一括返済して、金融機関が物件に設定している抵当権を抹消できれば何ら問題はありません。もし、自己資金が足りない場合は、家を売却した代金から返済することになります。
そのため、住宅ローンの残債額や、家の売却代金の相場など、現状を把握することが重要になります。以下では、把握しておくべき点について説明します。
住宅ローンが残っている家などの不動産には、住宅ローンを融資した金融機関が当該物件に抵当権を設定しています。抵当権とは、住宅ローンを借りている人が返済できなくなった場合に、金融機関が地方裁判所に申し出て、担保にしている物件を差し押さえ、競売にかけて貸付金を回収する権利のことです。
住宅ローンが完済されていない住宅の場合、住宅ローンを完済して抵当権を抹消しなければ原則として住宅を売却できません。もし、手元に完済する資金がない場合、売却と同時に売却益から住宅ローン残債を完済して抵当権を抹消する手続きが必要になります。また、家の売却とローンの完済を同時に行うには、金融機関との話し合いが必要になります。
抵当権を抹消するためには、まず住宅ローンの残債を確認する必要があります。残債の確認には、いくつかの方法があります。
一つは、住宅ローンを契約した金融機関から郵送されてくる「返済予定表」で確認することができます。返済予定表には、毎月の返済分やボーナス返済分の返済予定が記載されていて、返済が始まる頃に送られてきます。
もう一つは、毎年金融機関から送られてくる「年末残高証明書」で確認することもできます。年末残高証明書は、住宅ローン控除を受ける人に金融機関から毎年10月下旬頃に郵送されてきます。
返済予定表も年末残高証明書も手元にない場合は、借り入れた金融機関の窓口で教えてもらうことができます。インターネットで確認することができるところもあります。
家を売却するといくらぐらいで売れるかを、あらかじめ調べておくことも大事になります。
売却価格が、ローン残高の支払い額を下回る場合、別途自己資金でその差額を埋め合わせる必要があるからです。
自宅の売却相場を調べる方法の一つとして、レインズマーケットインフォメーションがあります。国道交通省指定の不動産流通機構が運営する不動産取引情報サイトで、最寄り駅などでの成約価格を知ることができます。
また、不動産一括査定サイトを利用すると、より正しい査定相場を教えてくれます。不動産一括査定サイトとは、インターネット上で売りたい不動産の情報を入力するだけで、無料で複数の不動産仲介会社に査定依頼ができるサイトです。
「すまいValue」は日本を代表する大手不動産会社6社が運営するサイトで、一度の査定申し込みで最大6社から査定額や回答を受け取れるのでしっかりと比較できて安心です。
住宅ローンの残債と売却相場が分かれば、二つを比較して、ローン残債が売却相場を下回る場合は「アンダーローン」と呼ばれ、売却代金でローンを完済できると見込まれるので売却に問題はないでしょう。
問題はローン残債が売却代金を上回る場合です。このケースは「オーバーローン」と呼ばれ、どうしても売却が必要なときは何らかの対策が必要になります。
なお、簡易査定(机上査定)による査定額だけでは、正確な家の価格の相場はわかりません。実際に売却する場合には、訪問査定をしてもらう必要があります。訪問査定では、実際の建物を見て、その使用状況、日当り、敷地の形状、周辺の環境などのチェックが行われるので、この訪問査定をもとに売出価格が決められます。
ローン残債と売却価格の相場を比べるとオーバーローンになってしまうが、それでもどうしても家を売却しなければならない場合、どうしたらよいでしょうか。その場合の対処法はいくつかあります。
ローン残債と売却価格の差額分を自己資金で支払う方法です。この方法は手元に余裕資金があったり、親族などから借りられたりできる場合で、その資金で差額を支払って住宅ローンを完済することになります。自己資金等を充てて返済する場合には、事前に返済方法の相談を住宅ローンの融資を受けている金融機関に相談する必要があります。
この方法が有効なのは、ローン残債と売却価格の差額が小さい場合や預貯金に余裕がある場合、親族などが一時的に便宜を図ってくれる場合などです。
自宅を売却すると次の住まいが必要になりますが、新居を賃貸住宅ではなく持ち家を購入する場合、「住み替えローン」を利用することができます。住み替えローンとは新居の住宅ローンと返済中のローン残債を一つにまとめる方法です。それができれば抵当権を抹消でき、オーバーローンでも物件を売却できます。
しかし住み替えローンを利用するには、金融機関の審査を受ける必要があります。新居のローンだけでも高額な上、ローン残債の分も加わるので、ローンの返済額が大きくなるので、その分審査が厳しくなります。
この方法は、収入がローンを払ってもゆとりがある場合や売却する自宅が築浅物件で高い売却価格が見込める場合には有効ですが、収入がそれほど多くない場合や売却額があまり見込めない場合、審査を通らない可能性もあります。
現在の住宅ローンが払えないなど、どうしても売却する事情がある場合は「任意売却」という方法があります。住宅ローンが支払えなくなって滞納を続けると、金融機関に住宅を差し押さえられて競売にかけられますが、それを防ぐには任意売却が有効です。
任意売却とは債務者(売主様)と債権者(金融機関)が協議の上、ローンの残債を売却代金で返済しきれない場合でも抵当権を解除してもらって売却を進める方法で、通常の仲介と比べると売主様に制限があるものの、販売価格は市場価格とさほど変わりません。金融機関の同意が得られれば、ローン残債を分割払いにすることも可能です。
ただし、住宅ローンの返済を滞納している場合、滞納記録が信用情報機関に残り、信用にキズがつくことは避けられません。また、売却が不調に終わると、最終的に競売になる可能性もあるので注意が必要です。
競売は、債務者が住宅ローンが支払えなくなると、債権者である金融機関が地方裁判所に申し立てて、裁判所が担保となっている住宅を差し押さえ、強制的に売却し、金融機関はそれによって融資額を回収する手続きのことです。競売は債務者の意向は反映されないので、家の売却価格は相場の6∼8割程度になるケースがあります。売却代金でローン残債を払いきれない場合、債務者は差額の返済義務を負います。
住宅ローンが残っている家を売却する際、手数料などさまざまな費用がかかります。また、売却後、譲渡所得税などの支払いが必要になる場合があります。ここでは、住宅ローンが残っている住宅の売却にともなう注意点について説明します。
不動産の売却には諸費用がかかり、売却代金がすべて手元に残るわけではないので注意が必要です。売却額とローン残債だけを比べて、アンダーローンだから大丈夫と思っていると、諸費用が差し引かれて赤字になるということもあります。そのために、あらかじめどのような費用が、どの程度必要になるのか把握しておきましょう。諸費用には 以下のようなものがあります。
不動産の売却が決定し成約した際に、不動産会社に規定の仲介手数料を支払います。仲介手数料の上限額は宅地建物取引業法と国土交通省告示で定められていて、物件価格によって異なります。
400万円超の場合: 成約価格(税抜)×3%+6万円+消費税
200万円超~400万円以下の場合: 成約価格(税抜)×4%+2万円+消費税
200万円以下の場合:成約価格(税抜)×5%+消費税
出典:国土交通省告示493号
印紙税は印紙税法で定められていて、不動産売買契約書では通常売主様と買主様が1通ずつ作成し、それぞれ収入印紙を貼ります。下記のように契約金額ごとに税額が定められていますが、2024年3月31日までは契約金額が10万円を超える金額には軽減税率が適用されます。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
10万円を超え 50万円以下のもの | 400円 | 200円 |
50万円を超え 100万円以下のもの | 1千円 | 500円 |
100万円を超え 500万円以下のもの | 2千円 | 1千円 |
500万円を超え1千万円以下のもの | 1万円 | 5千円 |
1千万円を超え5千万円以下のもの | 2万円 | 1万円 |
5千万円を超え 1億円以下のもの | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え 5億円以下のもの | 10万円 | 6万円 |
5億円を超え 10億円以下のもの | 20万円 | 16万円 |
10億円を超え 50億円以下のもの | 40万円 | 32万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 48万円 |
登録免許税とは登記手続きの際に国に納める税金のことですが、不動産の売却時には抵当権抹消の登録免許税を納めます。住宅ローンの残債がある場合、売却する土地に抵当権が設定されているので、売却時に清算して抵当権を抹消する登記を行います。
抵当権の抹消は、司法書士が法務局で行ってくれますが、この時に登録免許税を納めます。登録免許税は不動産1物件当たり1,000円で、戸建て住宅が土地1筆に建物1棟が建てられていれば、登録免許税は2物件2,000円となります。
住宅ローン返済手数料は、住宅ローンの残債を一括返済する際に金融機関に支払う手数料です。手数料は金融機関によって異なり、手続き方法によっても変わりますが、数万円かかります。あらかじめ知りたい場合は、住宅ローンを借り入れている金融機関に問い合わせるとよいでしょう。
住宅などの不動産を売却したときに、売却金額が購入価格を上回る売却益がある場合、譲渡所得とみなされ、譲渡所得税を支払う必要があります。譲渡所得には、不動産の所有期間が不動産の譲渡があった年の1月1日を基準日として5年以下の短期譲渡所得と5年を超える長期譲渡所得があり、それぞれに所得税、住民税、復興特別所得税(課税期間:2013年~2037年)が課されます。譲渡所得の計算式と各税率は以下の通りです。
譲渡所得=売却額-取得費用-譲渡費用
短期譲渡所得:所得税30%、住民税9%、復興所得税額2.1%
長期譲渡所得:所得税15%、住民税5%、復興所得税額2.1%
その他諸費用として、抵当権抹消登記の際の司法書士報酬、引越しの費用などがあります。
司法書士には、家を売却する際に抵当権抹消を依頼するため、報酬の支払いが必要です。報酬額は、司法書士によって変わりますが、1万円~3万円程度になります。
また、住み替えには引越しがともないますので、その費用が必要になります。買換えの場合に一時的な仮住まいをすれば、2回の引越しが必要になります。引越しが3~4月の引越しシーズンと重なると、引越し費用が高くつくことがあるので、注意が必要です。
住宅ローンが残っているマイホームを売却して損失が出た場合、確定申告によって所得税が還付されることがあります。
一つは、「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」です。令和5年12月 31日までに住宅ローンの残高を下回る価額で売却して損失が生じた時は、一定の要件を満たす場合、その年の給与所得や事業所得などから控除(損益通算)でき、それでも控除しきれなかった場合は譲渡の翌年以降3年間繰り越して控除(繰越控除)できるというものです。
もう一つは、「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」で、マイホームを令和5年12月31日までに売却して、新たにマイホームを購入した場合、譲渡損失が生じた場合に、一定の要件を満たすと、その年の給与所得などから損益通算でき、控除しきれない場合には翌年以降3年内に繰越控除できるというものです。
これらの特例を受けるには、譲渡したマイホームの売買契約日の前日に、償還期間10年以上の住宅ローン残高があることなどの種々の要件をクリアする必要があるので、その内容をきちんと確認する必要があります。
出典:国税庁3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
出典:国税庁 No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
不動産の売却で重要なのは、信頼できる不動産仲介会社に仲介を依頼することです。不動産仲介会社を選び間違えると、売却がうまくいかなかったり、相場よりも安く売却することにもなります。とくに住宅ローン残債があり、オーバーローンの場合はミスが許されません。
ではどのように仲介会社を選べばよいでしょうか。不動産仲介会社の中にも、得手、不得手があり、住宅の売却を専門にしている会社で、居住している地域に強い会社を選びましょう。
住宅の売却の場合、最初に考えるのは、いくらで売却できるかという点です。そこで、おすすめなのは、一括査定サイトで売却価格を調べるとともに、最適な不動産仲介会社を探すことです。その際のポイントは、複数の会社に査定を依頼することです。
一括査定で選んだ不動産仲介会社から訪問査定を依頼する会社を絞ります。その時も複数の会社に依頼します。査定に来た仲介会社の担当と知りたいことや疑問点について話し合うなかで、担当者の人柄や不動産に関する知識、税制改正など新しい情報にも強いことなどが分かってくるので、信頼できると感じられる不動産仲介会社を選ぶことをおすすめします。
住宅ローン残債のある家を売却する場合、現在の残債を知ることと、売却価格の相場を知ることが大事です。売却価格がローン残債を上回るかどうかによって、対応が異なってきます。何よりも重要なことは、信頼できる不動産仲介会社に売却を依頼することです。
不動産一括査定サイト「すまいValue」は不動産業界をリードする、信頼できる大手不動産会社6社が運営しており、簡単な入力で6社に無料査定を依頼して査定額を比較できます。運営会社6社の全国店舗数は約900店舗あり、お近くの店舗にお気軽にご相談いただけます。まずは、すまいValueに査定依頼することをおすすめします。
土地を売る時のポイントについて詳しく知りたい方は、こちらもお読みください
公認 不動産コンサルティングマスター・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
株式会社 髙野不動産コンサルティング 代表取締役、株式会社 アーキバンク 取締役。不動産会社にて600件以上の仲介、6,000戸の収益物件管理を経験した後、不動産ファンドのAM事業部マネージャーとして従事。現在は不動産コンサルティング会社を立ち上げ、投資家や事業法人に対して不動産コンサルティングを行いながら、建築・不動産の専門家で形成される株式会社アーキバンクの取締役として、業界において革新的なサービスを開発・提供している。
小林弘司
不動産コンサルタント/不動産投資アドバイザー
東京生まれ、東京育ち。海外取引メインの商社マン、外資系マーケティング、ライセンス会社などを経て、現在は東京都内にビル、マンション、アパート、コインパーキングなど複数保有する不動産ビジネスのオーナー経営者(創業者)です。ネイティヴによる英語スクールの共同経営者、地元の区の「ビジネス相談員」、企業顧問なども行っています。
該当の住所を選択してください
該当の住所を選択してください