不動産の売買契約では、売主と買主との間の後々のトラブルを防ぐため、不動産売買契約書を用いて契約を取り交わします。
売買契約は双方の署名・押印により締結できますが、契約時は契約内容に不明な点がないかしっかりと確認することが大切です。
ここでは、売買契約書の役割や内容の見方、注意するべきポイントについて解説します。
不動産売買契約は高額な取引のため、「不動産仲介会社は売主と買主へ売買契約書を発行しなければならない」と宅地建物取引業法(37条)により定められています。
不動産売買契約書とは、売主が所有する不動産を買主に引渡し、買主は対価となる代金の支払いを約束する契約書のことです。
不動産売買契約時に不動産売買契約書を用いる目的としては、双方に不利益を出さず、両者合意のもと不動産売買契約を締結することが挙げられます。
不動産売買契約書には売主と買主との間で取り決めたさまざまな事項が記載されており、書面からは双方の権利義務を確認することが可能です。
また、不動産仲介会社(宅地建物取引業者)が売主となって新築分譲マンションや新築建売住宅の売買契約を結ぶ場合、「一定の条件を満たした場合にクーリングオフ(契約の無条件解除等)できる」「手付金は売買代金の20%が上限」などのように契約内容に一定の制限が設けられます。
これは、不動産の専門家ではない買主を保護することを目的とした、不動産売買契約上のルールです。該当する不動産売買契約では、こうした内容をよく確認することも大切です。
不動産売却の基礎知識や手続きの流れについては、以下の記事を参考にしてください。
不動産売買契約書には多くの項目が記載されます。売主と買主で取り決めた事項によって契約内容が変わることもあるため、確認すべきポイントは個別の不動産売買契約で異なります。
以下より、不動産売買契約書に記載される基本の項目と、確認しておくべきポイントについて見ていきましょう。
不動産売買契約の取引対象となる物件を明確にするための項目です。
取引対象の不動産情報(土地、建物、所在地、地番など)は登記情報に基づいて記載されます。
登記情報の内容と異なる記載がされていないか確認しましょう。
不動産売買の契約時、一般的に買主は売主へ手付金(売買代金の一部)を支払います。記載内容に誤りがないか、金額が妥当かどうか確認しましょう。
また、不動産売買契約で支払われる手付金には、解約手付(契約解除する権利を留保するために支払われる手付金で、売主が解除する場合は倍額を支払う)、証約手付(契約が成立したことを証明する手付金)、違約手付(契約違反した場合に没収できる手付金で、売主に契約違反がある場合は倍額を支払う)があり、主に解約手付として支払われるケースが多いです。
そのほか、売買代金や中間金、支払いが複数回にわたる場合は各支払い日に誤りがないか確認します。
取引対象となる土地の面積が登記情報と異なる場合、売主側で土地の実測を行うケースがあります。
不動産売買契約書には実測対象となる土地の面積や土地の単価が記載され、代金は面積の差に応じて別途精算をすることもあります(精算せず実測のみとなるケースもあり)。
不動産の所有権移転や引渡し、登記手続きは、同日に行われるのが一般的です。
不動産売買契約書に記載された所有権移転と引渡しの時期に誤りがないか確認しましょう。
また、引渡しの際は所有権移転登記に必要な書類や住宅の鍵などを買主へ渡す必要があります。
売主はスケジュールに問題がないか(新居への引越し日や重要な用事と重なっていないか)確認しましょう。
「付帯設備等の引き継ぎ」は、条文として条約条項の欄に記載されます。
付帯設備とは、土地や建物に含まれることなく引き継ぎされる機器や設備のことです。
付帯設備(室内・室外)には、以下のようなものがあります。
室内:
換気扇、冷暖房、給湯器、電気配線、照明 など
室外:
庭木、庭石 など
付帯設備の引き継ぎがある不動産売買では、引渡し後、設備の状態や修理・撤去をめぐるトラブルが発生しやすいため注意しましょう。
売主は、引き継ぎや撤去を行う付帯設備を明確にし、買主の希望に応じて相談・調整することが重要です。
「負担の消除」は、条文として条約条項の欄に記載されます。
取引対象の不動産が「ほかの権利が設定されていない完全な所有権」であることを示すものです。
売主は、引渡す不動産に抵当権や賃借権など、所有権を阻害する権利が設定されていないか確認しましょう。
万が一、引渡す不動産に所有権以外の権利が残っていることが発覚した場合、売主が責任をもって権利の抹消をする必要があります。
抵当権などの権利を抹消できない場合、不動産売買契約自体がストップしてしまう可能性があるので、注意が必要です。
公租公課とは、国や地方公共団体へ納める公的負担の総称です。
公租は国税や地方税、所得税や住民税などの税金を指し、土地建物にまつわるものとしては固定資産税や都市計画税、不動産取得税などが挙げられます。
公課には、健康保険料や社会保険料、罰金などがあります。
不動産売買契約における公租公課は、売主と買主の間で精算するケースが一般的です。
負担分の振り分けは引渡し日を基準に日割りで算出し、不動産売買契約書には起算日が記載されます。
公租公課の細かな分担については条約条項の条文を確認しましょう。
何らかの事情から契約解除が必要となったときは、手付解除を行います。
手付解除の期限や条件は売主と買主により取り決めできるため、どのような取り決めなのか条約条項を必ず確認しましょう。そもそも手付解除を認めない不動産売買契約となっているケースもあります。
また、手付金の金額により、手付解除の際にかかる負担やリスクが異なります。
一般的に、手付金が少額であれば売主の負担が少ない代わりに手付解除のリスクが上がり、高額であれば負担が多い代わりに手付解除のリスクが下がります。
手付解除の期限や条件を確認する際は、金額も忘れずに確認しましょう。
「引渡し前の物件の滅失・毀損(危険負担)」は、条文として条約条項の欄に記載されます。
これは、不動産売買契約を締結した後に、自然災害などで当該物件が滅失・毀損した場合の取り決めです。
一般的には、売主が物件の修復をしたうえで引渡しを行います。
多大な修復費用が発生する場合、滅失・毀損の程度によって居住が難しいと判断される場合は、買主から無条件で不動産売買契約の解除を申し出ることも可能です。
引渡し前の物件の滅失・毀損に関わる内容は売主と買主で取り決めできるため、契約内容をよく確認しておきましょう。
売主または買主のどちらかに契約違反となる行為がみられた場合、違反された側は契約解除を行うことができます。
これを「債務不履行」と呼びます。
契約違反による契約解除の際は、契約を違反した者が相手に対して違約金を支払います。
不動産売買契約書には違約金の金額や契約違反があった場合の取り決めが記載されているため、万が一の事態に備えて確認しておきましょう。
「反社会的勢力の排除」は、標準モデル条項が条約条項の欄に記載されます。
「売主や買主が暴力団などの反社会的勢力ではない旨」「取引物件を反社会的勢力の事務所や活動拠点としない旨」が含まれた条文となっているか確認しましょう。
万が一、条文に反する行為があった場合、違反された側は不動産売買契約解除を行うことができます。
ローン特約とは、買主が住宅ローンを利用しようと考えていた際、何らかの理由によってそれが叶わなかった場合に、買主は不動産売買契約を解除できるという契約方法です。
ただし、買主の都合により不動産売買契約を解除する場合はローン特約が適用されず、違約金などが発生します。
売主は、このような形で不動産売買契約を白紙にしてしまわないためにも、売却活動期間中から買主の信用性を意識することが大切です。
ローン特約にまつわるトラブルを未然に防ぐには、不動産売買契約書に以下の点が明記されているかどうか確認しておきましょう。
「契約不適合責任」は、条文として条約条項の欄に記載されます。
契約不適合責任は瑕疵担保責任にあたる義務のことで、売主に課せられる責任です。
物件の引渡し後に新たな瑕疵を発見した場合、買主は売主に損害賠償の請求を行うことができます。
また、一定の条件を満たすことで、買主は不動産売買契約解除を行うことも可能です(民法570条、566条)。
契約不適合責任について売主と買主の協議がなかった場合、通常は原則となる規定が不動産売買契約書に記載されます。
売主が契約不適合責任を負う範囲や期間については特約として別途取り決めることもできるため、必要に応じて買主と話し合いましょう。
また、中古物件の売買ではインスペクションを実施するケースがあり、調査結果によって責任範囲を補足する条項が加えられるケースがあります。インスペクションが実施された場合には、その内容や責任範囲についても確認しておきましょう。
不動産売却で失敗しないために注意すべきポイントについては、以下の記事も参考にしてみてください。
不動産売買契約書の内容は売主と買主の取り決めによる部分が多く、見落としてしまうと契約後のトラブルに発展する可能性もあります。
ここからは、トラブルを未然に回避するために知っておきたい注意点について解説します。
不動産売買契約書の記載内容に明確な決まりはありません。
特に、金銭や責任問題に関わる取り決めは売主と買主である程度自由に行えるため、取引ごとに契約内容は異なります。
ただし、冒頭でも伝えているように、不動産売買契約内容は売主と買主の双方が不利益を被らない内容とすることが大切です。
どちらかにとって有利・不利となる契約内容を提示した場合、契約が成立せずに難航する可能性がある点に注意しましょう。
不動産売買契約で個別の取り決めがない場合は、原則にのっとり、標準的な書式が用いられるケースが多いです。
不動産仲介会社が作成する標準的な不動産売買契約書は、売主と買主の双方にとって公平な内容となります。
個別の要望や特約については不動産売買契約書の「特約欄」に記載されます。自分や相手の要望が漏れなく記載されているか確認しましょう。
相手からの要望で自分が対応できない条件、明らかに不利となる条件などが記載されていないか確認することも重要です。
一般的に、不動産売買契約書は不動産仲介会社が作成します(売買契約に不動産仲介会社が仲介している場合)。
売主と買主の仲介依頼先が異なる場合、どちらの不動産仲介会社が書類作成を行うかは、会社間で取り決められるケースが多いです。
契約時に使用する不動産売買契約書については、必ず会社間で内容を確認してもらい、両者が納得できる不動産売買契約を結びましょう。
不動産売買契約は次の流れで進めていきます。
契約当日から引渡しまでの流れを把握し、スケジュールを立てる際の参考にしてください。
不動産仲介会社が仲介を行う不動産売買では、契約時、不動産仲介会社から買主へ「重要事項説明書」の説明があります。
重要事項説明書の内容について異論がなければ、売主と買主で不動産売買契約書の契約内容を確認します。
契約内容について精査したい場合、売買契約当日までに不動産売買契約書の内容を確認してください。
不備や疑問点があれば不動産仲介会社の担当者へ相談しましょう。
不動産売買契約書の確認後、売主と買主の双方が契約内容に同意できる場合は、双方の署名・押印を経て不動産売買契約を締結します。
このとき、買主は売主へ現金や小切手で手付金を支払います(振り込み可)。
不動産売買契約が締結されるタイミングで不動産仲介会社の仲介手数料が発生します。所定の方法で支払いを済ませましょう。
不動産売買契約の締結後、売主は所有権の移転や引渡しに関わる手続きを進めます。
登記手続きや境界の確認では、必要書類の調達や外部への依頼など時間を要する準備もあります。
退居のための荷造りや掃除など売主自身が行う準備も多いため、手続きは速やかに済ませましょう。
引渡し日(決済日)当日の流れや必要書類については、こちらの記事を参考にしてください。
不動産売買契約で必要となる書類は、買主と売主で異なります。
特に、売主は多くの書類を揃える必要があるため注意してください。
契約日までに揃えておくべき書類や契約当日に持参するものについて見ていきましょう。
印鑑:不動産売買契約日に持参します。住宅ローンを利用する場合は実印を準備しましょう。
手付金:所定の金額を現金や小切手などで用意します(振り込み可)。
印紙または印紙代:不動産売買契約書に貼付する印紙を用意します。印紙代は売買の代金により異なります。
不動産仲介会社への仲介手数料:所定の金額を現金や小切手などで用意します(振り込み可)。
登記済権利証または登記識別情報:
不動産登記を行った際、不動産を管轄する法務局から発行されています。
固定資産税納税通知書:
年度の初めに不動産が所在する市区町村から送付されます。
建築確認通知書(検査済証):
不動産を建築した際に、建築会社やハウスメーカーから交付されます。
物件の間取り図と測量図:
一般的に、不動産を建築した建築会社やハウスメーカーから受け取っています。手元にない場合は、不動産を管轄する法務局から入手できます。
マンションの管理規約など:
マンションの場合、マンション購入時に管理会社や管理組合から受け取ります。
実印、印鑑証明書:
印鑑登録をしている実印と、発行から3ヶ月以内の印鑑証明書を用意します。
本人確認書類など:
運転免許証や健康保険証など、公的機関が発行した本人確認書類を用意します。
不動産売買契約をスムーズに行うには、売主と買主の双方に不利とならない不動産売買契約書を作成することが重要です。契約後のトラブルを防ぐためにも、契約内容と記載事項をしっかり確認しましょう。
特約事項や個別の不動産売買契約内容を取り決める際も、不利な条件が記載されていないか確認することが重要です。瑕疵などを問う難しい取り決めに疑問や不安がある場合は、不動産仲介会社へ相談することをおすすめします。
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斎藤 勇
ファイナンシャルプランナー/宅地建物取引士
保険や貯蓄、住宅ローンなど、お金にまつわる疑問や悩みごとの相談に応じている。不動産取引では不動産投資を通じて得た豊富な取引経験をもとに、売り手と買い手、貸し手と借り手、それぞれの立場でアドバイスを実施。趣味はマリンスポーツ。モットーは「常に感謝の気持ちを忘れずに」。
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