不動産売却する際にはさまざまな税金が課税されます。売却額が高額な場合、課税される税金も相応な額になるため、「想定外の出費で資金計画が狂ってしまった…」ということがあるかもしれません。想定外の税金によって戸惑うことがないように、売却時に知っておきたい税金の基本について解説します。
不動産を売却して得た所得を「譲渡所得」といいます。
譲渡所得 = 売却した金額 - (取得費 + 譲渡費用)
この譲渡所得は、売却した金額から購入時にかかった「取得費」と売却時にかかった「譲渡費用」を引いて算出します。
利益が出れば、所得税(国税)・住民税(地方税)・復興特別所得税(※2037年まで。所得税額に対して2.1%)が課税されます。売却した翌年に確定申告(売却の翌年の2月16日~3月15日)をし、所得税は確定申告の期間中に、住民税は送付されてくる納付書にしたがって納付(普通徴収)するか、給料などから天引き(特別徴収)されます。
個人に課税される所得税の対象となるのは、以下の10種類です。
利子取得 | 配当所得 | 不動産所得 | 事業所得 | 給与所得 |
譲渡所得 | 一時所得 | 雑所得 | 山林所得 | 退職所得 |
所得税は、個人のすべての所得を合算して税額を計算する「総合課税」を原則としますが、譲渡所得など一定の所得については、他の所得と合算せず分離・独立して税額を計算する「申告分離課税」となります。
他の課税方法には銀行の預金利子、上場株式などの配当など、確定申告をする必要のない「源泉分離課税」がありますが、いずれもその年の1月1日から12月31日までの所得に課税されます。
譲渡所得の税率は、不動産を「売却した年の1月1日時点の所有期間が5年以下・5年超」かどうかで税率に大きな違いがあり、所有期間が5年以下の場合を短期譲渡所得、5年超の場合を長期譲渡所得と呼びます。
たとえば、2020年の3月1日に購入した不動産の場合、2025年の5月1日に売却したとすると、所有期間は5年を超えています。しかし、売却した年(2025年)の1月1日時点の所有期間は5年に満たないことから、長期譲渡所得ではなく短期譲渡所得になります。
<不動産の譲渡所得の税率>
所有期間 | ||
---|---|---|
区分 | 短期譲渡所得 | 長期譲渡所得 |
期間 | 1月1日時点の所有期間が5年以下 | 1月1日時点の所有期間が5年超 |
税率 | 所得税 30% 住民税 9% 復興特別所得税 0.63% |
所得税 15% 住民税 5% 復興特別所得税 0.315% |
また、居住用の不動産(マイホーム)を売却した場合には、譲渡所得から3,000万円を控除できる「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」の適用を受けることができます。
さらに、1月1日時点の所有期間が10年超のマイホームを売却した場合には、「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」を受けることができ、以下の軽減税率が適用されます。
この特例は「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」と併用できるため、大きな節税効果が期待できます。
【3,000万円控除後の税率一覧】
1月1日時点の 所有期間 |
所得税 | 住民税 |
---|---|---|
5年以下 | 課税所得に対して30.63% | 課税所得に対して9% |
5年超~10年以下 | 課税所得に対して15.315% | 課税所得に対して5% |
10年超 | 課税所得6,000万円以下の部分…10.21% 課税所得6,000万円超の部分…15.315% |
課税所得6,000万円以下の部分…4% 課税所得6,000万円超の部分…5% |
不動産を売却してもプラスになるケースばかりではありません。売却損が生じた場合や、特別控除を適用して譲渡所得がゼロ、もしくはマイナスになった場合は譲渡所得税が課税されません。
不動産を売却して生じた売却損は、その損失を他の土地や建物の譲渡所得の金額から控除できますが、控除しきれない損失は他の所得と損益通算することはできません。しかし、長期譲渡所得に該当するマイホームの場合には、一定の要件を満たせば他の所得との損益通算をすることができ、控除しきれない損失は、譲渡の年の翌年以後3年間にわたり繰り越して控除することができます。
不動産売却による譲渡所得があれば、確定申告を行う必要があります。未申告のままでいるとペナルティが課されたり、特例を受けることができなかったりするため注意しましょう。
確定申告とは、「所得額に対して正しい税金を算出するための手続き」のことです。
確定申告が必要な所得を得ているにもかかわらず申告をしていないと、別途、加算税や延滞税も負担となるので、注意が必要です。
まずは、確定申告をしなければいけないケースや申告方法の種類について見ていきましょう。
確定申告は個人事業主だけが行うものではありません。
年末調整を行っている会社員であっても、以下の所得があれば確定申告が必要となる可能性があります。
確定申告は納税義務者本人が税金を算出するための手続きです。それに対して年末調整は、会社等の源泉徴収義務者が給与等を支払う際に徴収した税金の過不足を算出・精算するため手続きです。
給与から天引きされている所得税には控除などが反映されていないため、税額が正確ではありません。年末調整を行うことで、多く徴収している、または足りていない所得税額を算出し、追加徴収や還付を行います。
給与所得者の場合は、年末調整を行うと納税するべき税金の精算が済むため、上で挙げた所得を得ていなければ、確定申告の義務は免除されます。
確定申告には、青色申告と白色申告と呼ばれる2種類の方法があります。
主に複式簿記による帳簿を用いて確定申告を行うことで、特別控除が受けられる方法です。
青色申告を行うと所得金額から最高65万円の控除が受けられるほか、青色事業専従者給与を利用すれば家族の給与を経費として計上することもできます。また、3年間の赤字の繰り越しが可能となります。
簡易的な帳簿で確定申告ができる方法です。
青色申告のような特別控除がないため、税金の負担が高くなります。
複式簿記による帳簿の作成が難しい方や、「控除の必要がないわずかな所得を申告したい」という方に向いています。
不動産売却で得た利益は譲渡所得となり、確定申告が必要となります。
ただし、給与所得及び退職所得以外の所得が20万円以下の場合は確定申告の必要はありません。
「年末調整のない個人事業主」や「医療費控除を受けるために確定申告を行う方」の場合、金額に関係なく不動産売却で得た譲渡所得の申告が必要となるので注意しましょう。
不動産売却により損失が出た場合も確定申告が不要と判断されるケースがありますが、確定申告をすることで損益通算(赤字金額を他の所得で相殺する計算方法)が適用できる可能性があります。不動産を売却することで損失が出てしまった場合も、確定申告をするべきかどうか検討しましょう。
不動産売却による確定申告は、以下のような流れで進めていきます。
その他、適用を受ける特例によっては、追加で添付書類が必要となる場合があります。国税庁のホームページに公開されていますので、確認するようにしましょう。
確定申告が可能な申告時期は、土曜・日曜・祝祭日を除く2月16日~3月15日です。休日にあたる場合は翌日に振り替えられます。
確定申告により算出された譲渡所得税は、申告期限までに納税、もしくは振替手続きを行います。
不動産売却では一定の条件を満たすことで受けられる特例があります。
代表的な特例を見ていきましょう。
不動産を売却した際に得た譲渡所得から、最高3,000万円の控除を受けられる特例です。売却する不動産が居住用であれば、戸建てやマンションなどの物件タイプは問いません。
主な適用要件は次のとおりです。注意点と合わせて見ていきましょう。
適用要件 | 注意点 | |
---|---|---|
1 | 現在居住している建物・敷地、または借地権を売却すること ※居住している家屋が2つ以上ある場合には、主として居住している一つの家屋のみが対象となります。 以前居住していた不動産の場合は、居住をしなくなって3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること |
|
2 | 売却した年の前年、前々年に本特例及び「マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例」の適用を受けていないこと | 「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」により本特例の適用を受けている場合は可 |
3 | 売却した年、また、前年、前々年に「マイホームの買い換えの特例」や「マイホームの交換の特例」の適用を受けていないこと | - |
4 | 売却した建物・敷地に、収用等の場合の特別控除など、他の特例の適用を受けていないこと | - |
5 | 災害によって建物が滅失している場合、その敷地での居住をやめてから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること | |
6 | 売主と買主が親子や夫婦など、特別な関係でないこと | 特別な関係とは、共に生計を一にする親族、同居予定の親族、内縁関係にある人、特殊な関係にある法人などが該当します |
適用要件に当てはまっていても、適用除外となるケースが3つあります。
適用除外の要件 | |
---|---|
1 | 本特例を受けることだけを目的として入居した場合 |
2 | 居住用不動産(建物)を新築する期間中だけ仮住まいとして利用した場合、その他一時的な目的で入居した場合 ※結果として短期居住となったとしても、入居目的が一時的なものでなければ適用除外にはなりません |
3 | 別荘など、趣味・娯楽・保養の目的で所有している場合 |
本特例を受けるためには、確定申告書に「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書[土地・建物用])」を添え、申告を行う必要があります。
また、居住用不動産(マイホーム)を譲渡した時点において、売主の住民票に記載の住所と居住用不動産(マイホーム)の所在地に相違がある場合、以下の書類も必要となるため注意してください。
(売主が売却した不動産を居住用としていたことを証明できる書類)
このほか、居住用不動産(マイホーム)の売却では以下のような特例もあります。
居住用の不動産を10年を超えて所有していた場合、10年超所有の軽減税率の特例が適用されます。また、3,000万円特別控除の特例とも併用可能です。
<10年超所有の軽減税率>
課税譲渡所得金額 | 税率 |
---|---|
6,000万円以下の部分 |
14.21% |
6,000万円超の部分 |
20.315% |
「特定の居住用財産の買い換えの特例(特定のマイホームを買い換えたときの特例)」とは、一定要件をもとに2025年12月31日までに居住用不動産(マイホーム)を売却し、別の居住用不動産(マイホーム)を買い換えにより取得した場合に、譲渡所得に対する課税を繰り延べできる制度です。譲渡益が非課税となるわけではありませんが、買い換えの際に納税費用を用意する必要がないことから、資金計画にゆとりができます。
主な適用要件と注意点を見ていきましょう。
適用要件 | 注意点 | |
---|---|---|
1 | 現在居住している建物・敷地、または借地権を売却すること 以前居住していた建物・敷地の場合には、居住しなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること |
|
2 | 売却した年、また、前年、前々年に「居住用3,000万円の特別控除の特例」、「10年超所有軽減税率の特例」及び「マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例」の適用を受けていないこと |
|
3 | 売却した居住用不動産(マイホーム)と買い換えにより取得した居住用不動産(マイホーム)が日本国内にあること 売却した建物・敷地に、収用等の特別控除の特例など、他の特例の適用を受けていないこと |
- |
4 | 売却価額が1億円以下であること | 居住用不動産(マイホーム)と一体として利用していた部分を別途分割して売却している場合に、左記売却価額以下であるか否かの判定については、売却した年の2年前から2年後までの5年間に分割して売却した部分を含め計算すること |
5 | 売却した人の居住期間が10年以上、かつ、売却した年の1月1日において、建物・敷地の所有期間がそれぞれ10年を超えるものであること | - |
6 | 買い換える建物の床面積が、50平方メートル以上、かつ、 買い換える土地の面積が、500平方メートル以下であること |
- |
7 | 売却した年の前年から翌年までの3年間に居住用不動産(マイホーム)を買い換えること | 売却した年、または、その前年までに居住用不動産(マイホーム)を取得した場合には、売却した年の翌年12月31日までに居住すること 売却した年の翌年に居住用不動産(マイホーム)を取得した場合には、取得した年の翌年12月31日までに居住すること |
8 | 買い換えにより取得する居住用不動産(マイホーム)が耐火建築物の中古住宅である場合には、 取得の日以前25年以内に建築された建物であること または、 一定の耐震基準を満たすものであること 買い換えにより取得する居住用不動産(マイホーム)が非耐火建築物の中古住宅の場合には、 取得の日以前25年以内に建築された建物であること または、 取得期限までに一定の耐震基準を満たすものであること |
- |
9 | 親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売却したものでないこと | 特別な関係とは、共に生計を一にする親族、同居予定の親族、内縁関係にある人、特殊な関係にある法人などが該当します |
特定の居住用財産の買い換えの特例を受けるためには、以下に挙げる書類を添え確定申告を行う必要があります。
最後に、相続や贈与された不動産について解説します。亡くなった方の名義では不動産売却はできません。まずは相続人を決めて相続の手続きを行いましょう。相続税の手続きは納税までを10ヶ月以内に完了させる必要があります。
2015年に基礎控除が引き下げられ、相続財産の額が「基礎控除3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超える場合には相続税が課税されます。自分で計算するのが大変なケースもあることから、必要に応じて税理士などの専門家にご相談ください。
また、「相続した不動産を売却したお金で相続税を納税したい」という方は、不動産仲介会社に相談するなど、早めの対応を心がけましょう。
相続税を算出するには、まずは相続財産の課税価格を知る必要があります。
課税価格は、相続税評価額(相続または遺贈によって取得した財産の価格の合計)から葬式費用・債務額を引いたものに、3年以内に贈与された財産金額を足して算出します。
3年以内に贈与された金額で気になるのが、直系尊属から受けた住宅取得等資金の贈与を受けた際の非課税部分や配偶者控除の対象財産ではないでしょうか。これらは贈与税の課税価格に算入するということを相続税申告書に記載していれば、加算する必要はありません。
各相続人の課税価格 = 相続税評価額 - その人が負担した葬儀費用・債務額 + 被相続人から3年以内に贈与された財産の価格
課税価格が算出されたら、相続税の総額を計算します。
ステップ1:課税価格の合計額 - 遺産に係る基礎控除 = 課税遺産総額
ステップ2:(課税遺産総額 × 各相続人の法定相続分)× 税率 - 速算表の控除額 = 各相続人の法定相続分による相続税額
ステップ3:各相続人の法定相続分による相続税額の合計額 = 相続税の総額
【速算表】
課税遺産相続に各相続人の法定相続分を乗じた額 | ||
---|---|---|
税率(%) | 控除額(万円) | |
1,000万円以下 | 10 | ― |
1,000万円超~3,000万円以下 | 15 | 50 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 20 | 200 |
5,000万円超~1億円以下 | 30 | 700 |
1億円超~2億円以下 | 40 | 1,700 |
2億円超~3億円以下 | 45 | 2,700 |
3億円超~6億円以下 | 50 | 4,200 |
6億円超 | 55 | 7,200 |
相続税の総額を算出したら、各相続人等の相続税額を計算します。
相続税の総額 ×(各相続人の課税価格/課税価格の合計額)= 各相続人の相続税額
最後に、加算や控除を行い算出された金額が、各相続人が納付する相続税額になります。加算されるのは相続人が子や父母、配偶者でないケースです。贈与税額控除や配偶者控除などを受けられるケースもありますが、それぞれに一定の要件などがあります。
相続でなく、贈与された不動産を売却する場合も税金はかかります。
贈与を受けた時点でかかる税が贈与税です。
贈与税については、その年の1月1日から12月31日に贈与された財産の総額から暦年課税の非課税枠110万円を引いた価格が課税価格となり、課税価格にそって指定された税率をかけ、控除額を引いて算出します。
なお税率は、兄弟間、夫婦間、親から子への贈与で子が未成年の場合は「一般贈与財産(一般税率)」、祖父母や父母からの贈与で受贈者がその年の1月1日時点で18歳以上の子や孫の場合は「特例贈与財産(特例税率)」に区分されます。
贈与によって取得した不動産を売却する場合でも、譲渡所得税がかかります。取得費や所有期間も、前所有者から引き継ぐことになるので覚えておきましょう。
相続税や贈与税の計算には各種控除など複雑な要素も関わってきます。専門家のアドバイスを受けながら進めると安心です。
「不動産の売却」は人生で何度も経験することではありません。税金については複雑な面が多く「控除を受けられる対象であったのに、制度を知らず控除を受けられなかった」「期間の認識を間違っていたために思っていた以上に税金を支払うことになった」などの失敗談を耳にすることがあります。
不動産の売却前から売却後までをサポートしてくれる不動産仲介会社なら、さまざまな経験と実績をもとに、提携の税理士と協力して税金についてもアドバイスしてくれるでしょう。まずは気軽に相談してみましょう。
土地を売る時のポイントについて詳しく知りたい方は、こちらもお読みください。
斎藤 勇
ファイナンシャルプランナー/宅地建物取引士
保険や貯蓄、住宅ローンなど、お金にまつわる疑問や悩みごとの相談に応じている。不動産取引では不動産投資を通じて得た豊富な取引経験をもとに、売り手と買い手、貸し手と借り手、それぞれの立場でアドバイスを実施。趣味はマリンスポーツ。モットーは「常に感謝の気持ちを忘れずに」。
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